95話 天使と悪魔と忘却の悪魔
図書館から出ると、待ち受けていた天使が近付いてきた。
「どうだった?」
「ビンゴさ。どうやら忘却の悪魔の仕業のようだ。眼鏡のやつ、よほど聖書が気に入りのようで、次に忘却の悪魔が出没しそうな場所をピックアップしてくれたぜ」
俺はスマートフォンの地図アプリを開き、指を鳴らした。先ほど教わったデータが全て入力され、現在地から近い順に表示されてゆく。
「ピックアップなんて、そんなことができるのか」
「ああ。そら、今朝お前が見せてくれた聖書はかなり一般的なバージョンだったろう。所有の写本も、世界にひとつしかないというものでもなかった筈だ。だが、聖書には色んなバージョンが存在する。それこそ、ちょっとした写し間違いや勘違いによる誤植などで、この世にひとつしかないようなものもな。そういう特殊バージョンを所蔵する場所を挙げたものが、この地図だ」
さすが人間の本に興味を持って研究している眼鏡らしい着眼点だった。要は、多くの人間に共通する認識を一斉に忘却させることは割合簡単だが、特殊バージョンの聖書に関する認識を持った限られた人間を遠隔地から特定して記憶を操作するのは少々難しいので、実際にその場所へ赴き関係人物をあたる必要があるということだ。
「そういうことか。なら、それらの場所を当たってその悪魔を見つければ」
「少なくとも、話をすることはできるだろう」
もしもこれがご主人サマのオーダーだったならば、俺にできることは何ひとつないだろうが。
「よし、行こう。最初は……ここから最も近い、この図書館だな」
「ああ。もし忘却の悪魔を見つけたらすぐ教えてくれ。交渉は俺が担当する」
「そうだね、戦争になっても困るから、お願いするよ」
契約を交わしているわけでもない天使と悪魔の接触なんて、避けるに越したことはない。
俺は指を鳴らし、天使と共に地図上の座標に移動した。
「どうだった?」
「ビンゴさ。どうやら忘却の悪魔の仕業のようだ。眼鏡のやつ、よほど聖書が気に入りのようで、次に忘却の悪魔が出没しそうな場所をピックアップしてくれたぜ」
俺はスマートフォンの地図アプリを開き、指を鳴らした。先ほど教わったデータが全て入力され、現在地から近い順に表示されてゆく。
「ピックアップなんて、そんなことができるのか」
「ああ。そら、今朝お前が見せてくれた聖書はかなり一般的なバージョンだったろう。所有の写本も、世界にひとつしかないというものでもなかった筈だ。だが、聖書には色んなバージョンが存在する。それこそ、ちょっとした写し間違いや勘違いによる誤植などで、この世にひとつしかないようなものもな。そういう特殊バージョンを所蔵する場所を挙げたものが、この地図だ」
さすが人間の本に興味を持って研究している眼鏡らしい着眼点だった。要は、多くの人間に共通する認識を一斉に忘却させることは割合簡単だが、特殊バージョンの聖書に関する認識を持った限られた人間を遠隔地から特定して記憶を操作するのは少々難しいので、実際にその場所へ赴き関係人物をあたる必要があるということだ。
「そういうことか。なら、それらの場所を当たってその悪魔を見つければ」
「少なくとも、話をすることはできるだろう」
もしもこれがご主人サマのオーダーだったならば、俺にできることは何ひとつないだろうが。
「よし、行こう。最初は……ここから最も近い、この図書館だな」
「ああ。もし忘却の悪魔を見つけたらすぐ教えてくれ。交渉は俺が担当する」
「そうだね、戦争になっても困るから、お願いするよ」
契約を交わしているわけでもない天使と悪魔の接触なんて、避けるに越したことはない。
俺は指を鳴らし、天使と共に地図上の座標に移動した。