88話 暖かい冬

 年末年始を日本で過ごし、その後帰宅した私はまた機会があって、愛する男の家へ遊びに行った。広いダイニングには、今までそこにあったことのない物が堂々と鎮座していた。
「あら、天使サマ。こんにちは!」
 急いでソレから這い出してきたダイアナちゃんの挨拶に応え、私はソレを指差した。
「これ、こたつかい?」
 黒一色でコーディネートされた室内に合わせ、机も布団も黒のこたつがそこにあった。いつもはソファが置いてある、窓に面したスペースに。
「そうなの、こたつなの! 流石天使サマ、何でも知ってるのね!」
 いつまででも入っていられるわ、というダイアナちゃんの言葉に、キッチンから出てきた男が苦笑する。
「マツリカから日本の冬の話を聞いたらしくてな、ねだられてしまった」
「はは。確かに聞いたら欲しくなるよね」
 床暖房やエアコン、オイルヒーターの普及に加え、床に寝るという習慣がない西洋ではあまり普及していないと言われるこたつだが、それでも体験してみたいと思うには十分な魅力がある。話を聞いているうちに好奇心が掻き立てられたのだろう。
「この間はここでジャパニーズライスケーキも食べたんだぜ」
「餅だね! それはまた随分と和風の年明けを過ごしたんだな」
 餅は昔日本にいた頃にも一度だけ振る舞われたことがあるが、しかしそれ以降は殆ど食べる機会はなかった。ただ、以前日本に旅行した時に食べた餅を模したアイス菓子はとても美味しかったことを覚えている。
「まだ食べきってないんだ。ちょうどいいから、天使サマも食べてくか」
「ワオ! それは嬉しいな!」
「食べたそうな顔してたからな」
 男はまたキッチンに向かい、ダイアナちゃんがこたつから私を呼ぶ。暖かい冬のひと時が始まった。
1/1ページ
スキ