87話 想いを交わして 新年も貴女と

 エト……干支、という文化が日本にあることは、前の年の終わりにもマツリカから聴いて知っていた。何でも神様の御前でのレースの先着順だとかで順番が決められていて、日本人は生まれた年の干支を背負っているのだとか。
「それにしても、不思議な風習ね」
 十二月の終わり、クリスマスの少し前の放課後。マツリカが口にしたその言葉に、私は首を傾げる。
「じゃあマツリカは何年なの?」
「私は丑年よ。それに、ダイアナも」
「そっか、マツリカと同じだものね」
 頷きながらも、自分が牧場などにいるあの牛の属性を持っているだなんて、全くピンとこない。私の表情に、マツリカはくすっと笑った。黒い髪の毛がさらりと揺れて、カフェテリアの照明に輝く。
「丑年だからって牛っぽいとかそういう話ではないわよ。十二星座占いと同じよ」
「ああ、なるほど。それなら分かるわ」
 確かに、星座にも牡牛座があるし、牡牛座の生まれの人が牛っぽいという話ではない。マツリカの例えはいつも的確で、わかりやすい。
 私が感心していると、マツリカは指折り何かを数えながら言った。
「今年は卯年だったから、来年は……辰年だわ」
「タツ?」
 またも初耳の言葉に、私は再び首を傾げてしまった。
「それも動物なの?」
「いいえ、辰年の辰は……ううん、何て言えばいいかしら、ええっと……」
「あれは霊獣の類だな」
 急にすぐ隣で響いた低い声に驚いて見ると、そこに立っていたのは全身黒で統一した長身のイケメン……お兄様だった。
「たまたま通りかかったら面白い話をしていたからな。ダイアナ、辰年の辰はな、龍というやつだ」
「龍? ……ドラゴン?」
 それなら分かる、と思ったのだけど、お兄様もマツリカも、同時に首を振った。
「ドラゴンではないのさ。まあ暇があれば調べてみればいい」
 お兄様はそう言って、ふと何か思いついたようにちょっと笑った。ああ、やっぱり格好いい。なんて思っていたら、その顔がマツリカに向けられた。
「マツリカちゃん、今年は日本に行くのかい」
「ええ、祖父母の家を回らなくてはいけないので」
 マツリカは微笑みながら頷く。……こうして見ると二人とも黒髪黒目だし、私よりも兄妹っぽいわね。なんて思っていたら、お兄様は私の方を向いた。
「それじゃあダイアナ、マツリカちゃんに年賀状をもらうといい。それを見れば、ドラゴンとの違いはわかる筈だ」
 お兄様の後ろで、マツリカが嬉しそうに声を上げる。
「ダイアナに年賀状! それはとっても良いアイディアですね、ダイアナのお兄様」
「そうだろ」
 だからマツリカちゃんの年賀状が届くまでは龍について調べるんじゃないぞ、と言い残して、お兄様は行ってしまった。
 そもそも年賀状って何?
1/2ページ
スキ