86話 願いを新たに
「それでは新春書き初め大会、始まります!」
新年二日目、天使と共に赴いた市民会館のホールに、アナウンスが響き渡った。気合の入った袴姿の者、汚れてもいいようにジャージで来た子供、その道のプロかと思われる着物姿の者など、老若男女が大勢いる。
「わあ、ワクワクするねえ」
俺と天使は昨日同様の格好で参加しているわけだが、どう見ても西洋人である二人が書き初め大会に参加しているのは、少しばかり人の耳目を集めているようではある。天使は全く意に介していない様子だが。
「筆と墨の使い方はお分かりになりますか」
スタッフが声をかけてくれたので、俺と天使は謝意を示して大丈夫だと答えた。天使は過去に経験済みだし、俺は人間がする全ての物事について熟知している。
書き初め用の縦に長い半紙と墨と筆が目の前に置かれ、アナウンスが開始を宣言した。新たな気持ちで紙に向かい今年の目標を書く行為に、人間たちが多少なりとも厳かな気持ちで向かっていることが感じられる。隣で筆を振るう天使を見ると、これもやはり真剣な眼差しだ。
さて、俺は何を書こうか。
実は昨日、この会に参加することになってからずっと考えていたのだ。
今年の目標。
そもそも悪魔としての仕事には、年が改まるということはそれほど関係ない。もちろん対象としているのが人間である以上、完全に俺と無関係だとは言えないが……しかし、俺がやることはいつもひとつだ。
人間を誘惑して魂を得ること。
だがこの場でそんなことを書ける訳もない。かと言って他に何か達成したいことなんて……。
いや、ひとつあるか。俺にも書ける願いが。
俺はゆっくり筆をとった。
新年二日目、天使と共に赴いた市民会館のホールに、アナウンスが響き渡った。気合の入った袴姿の者、汚れてもいいようにジャージで来た子供、その道のプロかと思われる着物姿の者など、老若男女が大勢いる。
「わあ、ワクワクするねえ」
俺と天使は昨日同様の格好で参加しているわけだが、どう見ても西洋人である二人が書き初め大会に参加しているのは、少しばかり人の耳目を集めているようではある。天使は全く意に介していない様子だが。
「筆と墨の使い方はお分かりになりますか」
スタッフが声をかけてくれたので、俺と天使は謝意を示して大丈夫だと答えた。天使は過去に経験済みだし、俺は人間がする全ての物事について熟知している。
書き初め用の縦に長い半紙と墨と筆が目の前に置かれ、アナウンスが開始を宣言した。新たな気持ちで紙に向かい今年の目標を書く行為に、人間たちが多少なりとも厳かな気持ちで向かっていることが感じられる。隣で筆を振るう天使を見ると、これもやはり真剣な眼差しだ。
さて、俺は何を書こうか。
実は昨日、この会に参加することになってからずっと考えていたのだ。
今年の目標。
そもそも悪魔としての仕事には、年が改まるということはそれほど関係ない。もちろん対象としているのが人間である以上、完全に俺と無関係だとは言えないが……しかし、俺がやることはいつもひとつだ。
人間を誘惑して魂を得ること。
だがこの場でそんなことを書ける訳もない。かと言って他に何か達成したいことなんて……。
いや、ひとつあるか。俺にも書ける願いが。
俺はゆっくり筆をとった。