85話 カウントダウンは一緒に
二〇二三年から二〇二四年に変わるその時を過ごすことになったのは、日本の中華街近辺と決まった。ちょうど年越しイベントが開かれるのと、悪魔の仕事である調査場所、すなわち対象の寺社仏閣が近辺にあるからだ。
ダイアナちゃんも行きたがったそうだけれど、留守を任せると言われ、むしろ張り切って残ってくれたそうだ。
「菓子はコンビニで調達すればいいが、せっかく中華街に来たからにはそれらしい土産も買ってやらんとな」
とか何とか言いながら、悪魔はあちこちの店に顔を突っ込む。ここに来るまでに私が欲しくなってしまって買い揃えた色違いのジャンパーの黒い背中から、黄金の龍がこちらを睨んでいる。
「それにしても天使サマがこんな不良っぽいジャンパーを所望するとは驚いたぜ」
どんどん暗くなっていく空に抗うようにネオンが輝き賑やかな街並みで、男は私に 饅頭 を渡してくれた。冬の空気に、饅頭の放つ湯気がのぼっていく。
「不良っぽいのかい、これ? 綺麗な刺繍に胸が躍ったのだけれど。それに、龍は次の干支だろう。縁起物じゃないか」
男の身につけたものは黒に金糸での刺繍、私のはスカイブルーに銀糸での刺繍がされている。互いの目の色で揃えたのだが、これは不良っぽい物だったのだろうか?
「まあ、あまり上品なイメージはないのさ、ここ日本ではな。だがそれだけに……似合ってるぜ、天使サマ」
「ありがとう。お前もとても似合ってるよ」
嬉しそうな男を見ながら、饅頭を頬張る。中に餡子が入っているものと思っていたら肉が入っていて驚いたが、とても美味しい。ほの甘い皮と肉とを頬張りながら土産物屋を散策していると、男が声を上げた。
「これなんかいいんじゃないか」
男の手にあったのは、赤いチャイナドレスだった。ダイアナちゃんの綺麗なブロンドに映えることは間違いない。
「それはいいね。きっとダイアナちゃんも喜ぶよ」
「よし。これに決めた」
男はいそいそとカウンターへ向かう。その間に街の中はいよいよ人で混み合ってきた。元々春節に合わせて灯されているイルミネーションの光に加えて、今晩のカウントダウンに合わせた装飾が輝いている。
「買えたぞ。カウントダウンもそろそろだな」
言いながら男はスマートフォンを取り出し、その画面に通話相手を映し出した。金色のツインテールを揺らしながら、少女の使い魔が笑みを浮かべてこちらを見る。
「ハロー、お兄様、天使様! 私はちゃんとお兄様の留守を守ってるわよ」
「ありがとう、ダイアナ。土産も確保したから楽しみに待ってろ」
楽しそうな会話を眺めていると、花火の打ち上がる音が聞こえた。
「今の……」
「ああ、港の方ではカウントダウンの花火を打ち上げているんだったな。どうだろう、ここから見えるといいが」
男はスマートフォンを高く掲げる。画面からダイアナちゃんの可愛らしい声が聞こえた。
「見えたわ、お兄様! ありがとう!」
「それはよかった。それじゃあもうカウントダウンだ。このまま一緒に年を越そう」
黒いスマートフォンが私と男の間に保持され、街の人々はウキウキとその時を待つ。
やがてカウントダウンが始まり、年越しの瞬間、画面の中でダイアナちゃんがジャンプした。
「年越しジャンプか。本当に今の若いやつはやるんだな」
「もう。お兄様ってばすごくイケメンなのに、お爺さんみたい」
ころころと笑い、少しだけ会話をし、ダイアナちゃんは「それじゃあお休みなさい」と画面を切った。男はスマートフォンを仕舞い、私を見る。
「じゃあ天使サマ、俺たちもホテルに戻るか?」
「ううん。それもいいけれど、せっかくの新年の夜だ。まだ街を見て回りたいな」
私たちには睡眠は必要ない。ホテルで語り明かすのもいいが、せっかく普段来ない場所に来たのだ。それも、新しい年を迎える特別な夜に。
男は微笑み、頷いた。
「承知した。それじゃあ新年の夜を楽しもうか」
人々が新しい一年を迎える笑顔の中を、私たちは歩き出した。
ダイアナちゃんも行きたがったそうだけれど、留守を任せると言われ、むしろ張り切って残ってくれたそうだ。
「菓子はコンビニで調達すればいいが、せっかく中華街に来たからにはそれらしい土産も買ってやらんとな」
とか何とか言いながら、悪魔はあちこちの店に顔を突っ込む。ここに来るまでに私が欲しくなってしまって買い揃えた色違いのジャンパーの黒い背中から、黄金の龍がこちらを睨んでいる。
「それにしても天使サマがこんな不良っぽいジャンパーを所望するとは驚いたぜ」
どんどん暗くなっていく空に抗うようにネオンが輝き賑やかな街並みで、男は私に
「不良っぽいのかい、これ? 綺麗な刺繍に胸が躍ったのだけれど。それに、龍は次の干支だろう。縁起物じゃないか」
男の身につけたものは黒に金糸での刺繍、私のはスカイブルーに銀糸での刺繍がされている。互いの目の色で揃えたのだが、これは不良っぽい物だったのだろうか?
「まあ、あまり上品なイメージはないのさ、ここ日本ではな。だがそれだけに……似合ってるぜ、天使サマ」
「ありがとう。お前もとても似合ってるよ」
嬉しそうな男を見ながら、饅頭を頬張る。中に餡子が入っているものと思っていたら肉が入っていて驚いたが、とても美味しい。ほの甘い皮と肉とを頬張りながら土産物屋を散策していると、男が声を上げた。
「これなんかいいんじゃないか」
男の手にあったのは、赤いチャイナドレスだった。ダイアナちゃんの綺麗なブロンドに映えることは間違いない。
「それはいいね。きっとダイアナちゃんも喜ぶよ」
「よし。これに決めた」
男はいそいそとカウンターへ向かう。その間に街の中はいよいよ人で混み合ってきた。元々春節に合わせて灯されているイルミネーションの光に加えて、今晩のカウントダウンに合わせた装飾が輝いている。
「買えたぞ。カウントダウンもそろそろだな」
言いながら男はスマートフォンを取り出し、その画面に通話相手を映し出した。金色のツインテールを揺らしながら、少女の使い魔が笑みを浮かべてこちらを見る。
「ハロー、お兄様、天使様! 私はちゃんとお兄様の留守を守ってるわよ」
「ありがとう、ダイアナ。土産も確保したから楽しみに待ってろ」
楽しそうな会話を眺めていると、花火の打ち上がる音が聞こえた。
「今の……」
「ああ、港の方ではカウントダウンの花火を打ち上げているんだったな。どうだろう、ここから見えるといいが」
男はスマートフォンを高く掲げる。画面からダイアナちゃんの可愛らしい声が聞こえた。
「見えたわ、お兄様! ありがとう!」
「それはよかった。それじゃあもうカウントダウンだ。このまま一緒に年を越そう」
黒いスマートフォンが私と男の間に保持され、街の人々はウキウキとその時を待つ。
やがてカウントダウンが始まり、年越しの瞬間、画面の中でダイアナちゃんがジャンプした。
「年越しジャンプか。本当に今の若いやつはやるんだな」
「もう。お兄様ってばすごくイケメンなのに、お爺さんみたい」
ころころと笑い、少しだけ会話をし、ダイアナちゃんは「それじゃあお休みなさい」と画面を切った。男はスマートフォンを仕舞い、私を見る。
「じゃあ天使サマ、俺たちもホテルに戻るか?」
「ううん。それもいいけれど、せっかくの新年の夜だ。まだ街を見て回りたいな」
私たちには睡眠は必要ない。ホテルで語り明かすのもいいが、せっかく普段来ない場所に来たのだ。それも、新しい年を迎える特別な夜に。
男は微笑み、頷いた。
「承知した。それじゃあ新年の夜を楽しもうか」
人々が新しい一年を迎える笑顔の中を、私たちは歩き出した。