84話 悪魔の専門分野
クリスマスも過ぎ、新年を迎える準備に忙しない教会からの帰り道、可愛らしいダッフルコートに身を包んだ金髪の少女に出会った。
「ダイアナちゃん」
熱心に道端のポストカードラックを眺めていた少女は振り返って私を認めると、花が咲くような笑顔になった。
「天使……じゃなかった、神父様! 教会の帰りかしら」
「うん、そうだよ。ダイアナちゃんはお買い物かな」
ついさっきまで彼女が見つめていたポストカードラックには、綺麗な写真がメインのポストカードがたくさん揃っている。
「これは……日本の写真かな」
恐らくは世界中の観光スポットをテーマとした商品群なのだろう。ダイアナちゃんが見つめていた所には日本の寺や神社が写ったポストカードが並んでいる。
「そうなの。今頃マツリカは……私の友達は日本にいる筈だから、気になっちゃって。て……神父様は、日本の年越しのこと知ってる?」
「まあ、人並みには」
もともと買うつもりはなかったのだろう、ダイアナちゃんが歩き出したので、私も並んで歩を進めた。
「お寺で鐘を撞くのよね。マツリカが話してくれたわ。確か百八回だったかしら。とても多いわよね」
「そうだね。それは人間の煩悩……苦しみの素となるものの数だというよ」
「煩悩? ……難しそうな言葉ね」
少しだけ眉をしかめて、ダイアナちゃんは呟いた。
「ふふ、そうだね。仏教の概念だけれど……でも、これはダイアナちゃんやラブのような悪魔の専門分野ではないかな」
「そ、そうなの? それなら勉強しないといけないわね……」
私の愛する男の使い魔となった彼女だが、しかし悪魔らしい仕事はしていないと聴いている。それでもひととおりのことは……自分が世話になっている場所の者たちがどんな仕事をしているのか知りたいというその気持ちは、天使の私からしても微笑ましく感じられる。その勉強の内容はひとまず置いておくとして。
「それじゃあダイアナちゃん、また」
「さようなら、天使様」
小さなシルエットが遠ざかってゆく。
「ダイアナちゃん」
熱心に道端のポストカードラックを眺めていた少女は振り返って私を認めると、花が咲くような笑顔になった。
「天使……じゃなかった、神父様! 教会の帰りかしら」
「うん、そうだよ。ダイアナちゃんはお買い物かな」
ついさっきまで彼女が見つめていたポストカードラックには、綺麗な写真がメインのポストカードがたくさん揃っている。
「これは……日本の写真かな」
恐らくは世界中の観光スポットをテーマとした商品群なのだろう。ダイアナちゃんが見つめていた所には日本の寺や神社が写ったポストカードが並んでいる。
「そうなの。今頃マツリカは……私の友達は日本にいる筈だから、気になっちゃって。て……神父様は、日本の年越しのこと知ってる?」
「まあ、人並みには」
もともと買うつもりはなかったのだろう、ダイアナちゃんが歩き出したので、私も並んで歩を進めた。
「お寺で鐘を撞くのよね。マツリカが話してくれたわ。確か百八回だったかしら。とても多いわよね」
「そうだね。それは人間の煩悩……苦しみの素となるものの数だというよ」
「煩悩? ……難しそうな言葉ね」
少しだけ眉をしかめて、ダイアナちゃんは呟いた。
「ふふ、そうだね。仏教の概念だけれど……でも、これはダイアナちゃんやラブのような悪魔の専門分野ではないかな」
「そ、そうなの? それなら勉強しないといけないわね……」
私の愛する男の使い魔となった彼女だが、しかし悪魔らしい仕事はしていないと聴いている。それでもひととおりのことは……自分が世話になっている場所の者たちがどんな仕事をしているのか知りたいというその気持ちは、天使の私からしても微笑ましく感じられる。その勉強の内容はひとまず置いておくとして。
「それじゃあダイアナちゃん、また」
「さようなら、天使様」
小さなシルエットが遠ざかってゆく。