82話 想いを継いで 聖夜の贈り物

 牢獄は暗く汚く、人の心が惨めに弱っていくように作られているような場所だった。悪臭漂うその場所で、鉄格子越しに数名の痩せた男たちがうずくまり、私を見上げた。
「ニコラオス殿に面会に参りました……」
 見回すまでもなかった。彼の姿はこの暗鬱たる場所にあっても、その強い心が放つ光に満ちていた。既に一年ほど幽閉され、粗末な身なりをして髪も髭も獣のようだというのに……眼差しは、そこから窺える魂の輝きは、非常にまっすぐで美しかった。その光が、私を見返した。
「私がニコラオスです」
 そう言って丁寧に頭を下げた。
「頭を上げてください。私は貴方と話してみたく参ったのです」
 彼の清冽な眼差しがこちらを見上げ、無言のままに私の言葉を促した。私はまず、彼のこれまでの善行について尋ねた。身売りをしなくてはいけなくなった娘たちの家に金貨を投げ入れ窮地を救ったことや海に落ちた水夫を蘇らせたことなどの真否を問うたが、彼は静かに微笑むばかりで肯定も否定もしなかった。
「私がただ言えることは、貧しき者たちに手を差し伸べるのは当たり前だということです。我らは皆、兄弟なのですから。そこに教徒もそれ以外も関わりありません」
「それでは」と、私は続けて尋ねた。
「なぜ貴方はこのような時の流れの中にあって尚、信心を隠そうとしないのですか」
 彼はむしろ不思議そうに、こう尋ね返した。
「信心というものは、隠そうとして隠せるものでありましょうか」
 私は胸が暖かくなるのを感じた。彼が纏う光の正体が、分かったような気がした。
 彼は私をじっと見つめて、最後にこう言った。
「そうではありませんか、主の使いのお方」
 ああ、この男なら大丈夫だ。
 私はただ頷いて、面会を終えた。
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