82話 想いを継いで 聖夜の贈り物

 その頃、キリスト教徒は激しい弾圧を受けていた。そもそも比較的、他の様々な宗教に寛容だったローマ帝国にあってキリスト教が異端と見做されるようになったのは、教徒らが皇帝を崇拝しなかったことが原因だと言われる。確かに神のもとでの平等を重んじるキリスト教信者にとって皇帝を神とすることは教えに反するし、彼らが集まって礼拝を行う様子が何かを企てているように見えたというのも、あり得ないことではなかったろう。しかしそれにしても、彼らが受けた弾圧はあまりにもひどかった。コロシアムで見せ物紛いにして殺されたり、教会の財産が全て没収されたり、投獄幽閉、あからさまな差別などなど……私たち天使が眉を顰めざるを得ない出来事ばかりが日常的に行われていた。
「それでもお前らは、いや、天使たちは静観を決め込んだってわけか」
 男が口を挟み、私は静かに頷く。
 そう、天使たちは口も手も出さなかった。そういうものなのだ。人間たちを善い方向へ導くというのが我々の使命ではあるけれど……彼らが自分たちで運命を切り開くことを期待するのが、天使のやり方だ。感化することこそがその本質であり、救済はその本分ではない。
「けれど、私はただ黙って見ているなんてできなかった。仲間たちには嫌な顔をされたけれど、ひっそりと地下墓所での礼拝に混じったり彼らを国の人間の目から隠したりしていたよ。と言っても、私ひとりが対処できる事案はほんの僅かなものだったけれど……」
 人々は、信仰を明らかにすることを恐れるようになっていた。そんな中にあって、『彼』は堂々と教会の教えを守り抜いて生きていた。
「ミラの聖ニコラオス」
「ああ。私が隠れて信仰を守ろうとする教徒たちを見守っていたちょうどその頃、彼も同じ国にいたんだ」
 サンタクロースのモデルであると言われる彼はその頃、天使のお告げによって大司教となっていた。しかし皇帝による教徒弾圧が起こり、それでも信条を貫こうとした彼は数年間の投獄という憂き目に遭ったのだ。
「そんな折、投獄された彼に面会する機会が巡ってきてね」
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