10話 my evil valentine.

 そんな罪深い感情も、一週間も経った頃には、あまり意識にのぼらせずに済むようになっていた。しかしこれが人間の抱く感情に近いのだとすれば、人間たちは日々、なんという忍耐を強いられていることだろう
 その日、一日の務めを終えて仮初の棲み家へ帰り着いた時、郵便受けに小箱が入っているのに気がついた。部屋で開けて見ると、中身は紅茶の葉とクッキーの詰め合わせだった。
 そうか、そういえば今日が聖バレンタインの祝日だ。あの男と話して満足してしまって、それ以降は気にかけてもいなかった。
 しかし、いったい誰からの贈り物だろう。
 不思議に思いながら箱の中身を取り出していくと、底にシンプルな黒いカードがあった。
『To my Angel. From your Valentine.』
 洒落た装飾文字には見覚えがなかったが、贈り主が誰なのかはすぐに分かった。
 忘れかけていた罪深い感情がどうしようもなく溢れてくるのを止められず、私はしばらく惚けたように突っ立っていた。
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