74話 human's valentine.
「天使サマ、こんなに紅茶をありがとう。それに、愛のこもったカードも」
愛する悪魔が、私の贈った紙袋を手にして口元を綻ばせた。久々に待ち合わせしたレストランで、料理が来るのを待ちながら、私たちはバレンタインの贈り物を交換し合っている。
「こちらこそ、いつもありがとう。あのお店、雰囲気も店主さんの接客もいいね。今度から一緒に行こうか」
「ああ、それもいいな。……ん、そう言えば」
悪魔は、黒のジャケットの内ポケットから、見覚えのあるカードを取り出した。黒くシックで、上品なデザインだ。
「それ」
「あの店主からもらった。どうやら俺に気があるらしい」
そういうことをさらりと言ってしまうのが、この男の悪いところだ。
しかし、それならば。
「そうだな、さっきのはなかったことに」
「え? さっきの?」
悪魔はすかさず聞き返した。その慌てように思わず笑ってしまう。いつもは澄ましているのに、私のことになると途端に我を失うのが嬉しい。
「安心して、ラブ。紅茶屋に一緒に行く話のことさ」
「ああ、それか。しかし、なぜ?」
本気で分からないのだろう悪魔の手から、私はカードを取り上げた。
「お前には勿体ないよ、これは」
疑問符を浮かべる男の、額を指で弾く。
「……っ」
不意打ちに、男は目を丸くした。
黒いカードに込められた真心が指を温めるのを感じつつ、私はそれを男のジャケットに仕舞った。あの、純真そうな紅茶屋のお嬢さんの顔が浮かぶ。
「一緒には行けない。だからラブ、またアールグレイを買ってきてくれ」
悪魔はきょとんとしたが、「お安い御用さ」と頷いた。
人々の想いが地上を温める、冬の日が終わろうとしている。またこの日を共にできたことを祝して、私たちはグラスを打ち鳴らした。
愛する悪魔が、私の贈った紙袋を手にして口元を綻ばせた。久々に待ち合わせしたレストランで、料理が来るのを待ちながら、私たちはバレンタインの贈り物を交換し合っている。
「こちらこそ、いつもありがとう。あのお店、雰囲気も店主さんの接客もいいね。今度から一緒に行こうか」
「ああ、それもいいな。……ん、そう言えば」
悪魔は、黒のジャケットの内ポケットから、見覚えのあるカードを取り出した。黒くシックで、上品なデザインだ。
「それ」
「あの店主からもらった。どうやら俺に気があるらしい」
そういうことをさらりと言ってしまうのが、この男の悪いところだ。
しかし、それならば。
「そうだな、さっきのはなかったことに」
「え? さっきの?」
悪魔はすかさず聞き返した。その慌てように思わず笑ってしまう。いつもは澄ましているのに、私のことになると途端に我を失うのが嬉しい。
「安心して、ラブ。紅茶屋に一緒に行く話のことさ」
「ああ、それか。しかし、なぜ?」
本気で分からないのだろう悪魔の手から、私はカードを取り上げた。
「お前には勿体ないよ、これは」
疑問符を浮かべる男の、額を指で弾く。
「……っ」
不意打ちに、男は目を丸くした。
黒いカードに込められた真心が指を温めるのを感じつつ、私はそれを男のジャケットに仕舞った。あの、純真そうな紅茶屋のお嬢さんの顔が浮かぶ。
「一緒には行けない。だからラブ、またアールグレイを買ってきてくれ」
悪魔はきょとんとしたが、「お安い御用さ」と頷いた。
人々の想いが地上を温める、冬の日が終わろうとしている。またこの日を共にできたことを祝して、私たちはグラスを打ち鳴らした。