63話 ある使い魔の粗相

 逢魔時とも呼ばれる夕暮れ。その本を見て、思わず体がこわばった。もう何世紀も前、ある人間が遺した魔術書だ。何重にも封印をかけて、誰も見つけ得ない地下の書庫にしまっておいた筈なのに。それを、魔力もない人間が所持しているなんて。
「ちょっと、君」
 俺が呼び止めると、人間は振り返った。黒髪の少女。この国の人間ではない、アジア系の……。
「ああ、君は……マツリカちゃん、だったかな」
 顔を見てようやく、彼女がダイアナの親友であることに気がついた。マツリカという東洋出身の少女は、俺の使い魔であるダイアナよりおとなしい印象の顔立ちを和ませた。
「ああ、ダイアナのお兄様ですね。こんばんは」
 この少女とは、あまり面識がなかった。ダイアナの交友関係までは特にカバーしていないので、どのような人間なのかまでは知らない。古びた表紙に蛇が描かれた、いかにも禍々しい禁書を、どのような了見でペーパーバックのように気軽に持ち歩いているのかも分からない。
「……図書館帰りかい」
「え? ……あ、これですか。いえ、図書館ではなくて、ダイアナのお部屋に遊びに行った、帰りなんです」
「……え?」
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