58話 eyes on me.
初めてその唇を奪ったとき、何も知らない無垢な天使は、汚らわしい行為だと拒絶して身を捩った。自分の中に、黒に繋がる部分があるなんて信じられなかったのだろう。それでも最後には、体に備わった感覚に溺れ、無意識のうちに受け入れていたが……。
あのとき、天使の瞳は閉じられていた。逃れられない現実を、せめて視界から遮断したいかのように。視界を放棄するということが、即ち感覚の鋭敏化に繋がることも分からずに。青く澄んだ瞳を見られないのは残念だった。しかし、どこかで安堵していたのも事実だ。
きっとどこまでも天使らしいあいつは、呼吸を乱されながらも、俺の微かな怯えに気がついてしまっただろうから。あいつの心を少しでも俺に傾けたいという一心、そしてそれが不可能だと突きつけられることへの怯えが、俺の瞳の底、魂の揺らめきに映っていることに。
だが、今は違う。
「ん……」
鼻から甘い声を漏らしながら、天使はキスに没頭している。俺の首筋に腕を回し、胸から腰を密着させて、何度も何度も、啄むように。
その瞳は、しかと俺を捉えて瞬きすらしない。
「……んんっ」
やんわり離れようとすると、形の良い眉が不服そうにひそめられ、艶やかな唇が尖る。
「……もう終わり?」
「いや、そうじゃなくてだな……。天使サマ、どうして目を閉じないんだ? 前は閉じてただろ」
一体いつからなのかは覚えていないが、最近はずっとこうだ。全てを見通す綺麗なブルーの目が、俺の魂まで見透かしているようで、……気恥ずかしい。
天使は、不思議そうに首を傾げた。
「だって、見ていたいんだから仕方ないだろう。私と一緒にいることで幸せそうなお前を見ているのが、私には幸せなことなんだ」
それに、気持ちよさそうなお前を見るのもね、と付け加えるその顔を、直視することができない。ああ、俺はきっと永遠に、こいつの純粋さに敵うまい。
ぼうっとした頭で、そんなことを思った。
あのとき、天使の瞳は閉じられていた。逃れられない現実を、せめて視界から遮断したいかのように。視界を放棄するということが、即ち感覚の鋭敏化に繋がることも分からずに。青く澄んだ瞳を見られないのは残念だった。しかし、どこかで安堵していたのも事実だ。
きっとどこまでも天使らしいあいつは、呼吸を乱されながらも、俺の微かな怯えに気がついてしまっただろうから。あいつの心を少しでも俺に傾けたいという一心、そしてそれが不可能だと突きつけられることへの怯えが、俺の瞳の底、魂の揺らめきに映っていることに。
だが、今は違う。
「ん……」
鼻から甘い声を漏らしながら、天使はキスに没頭している。俺の首筋に腕を回し、胸から腰を密着させて、何度も何度も、啄むように。
その瞳は、しかと俺を捉えて瞬きすらしない。
「……んんっ」
やんわり離れようとすると、形の良い眉が不服そうにひそめられ、艶やかな唇が尖る。
「……もう終わり?」
「いや、そうじゃなくてだな……。天使サマ、どうして目を閉じないんだ? 前は閉じてただろ」
一体いつからなのかは覚えていないが、最近はずっとこうだ。全てを見通す綺麗なブルーの目が、俺の魂まで見透かしているようで、……気恥ずかしい。
天使は、不思議そうに首を傾げた。
「だって、見ていたいんだから仕方ないだろう。私と一緒にいることで幸せそうなお前を見ているのが、私には幸せなことなんだ」
それに、気持ちよさそうなお前を見るのもね、と付け加えるその顔を、直視することができない。ああ、俺はきっと永遠に、こいつの純粋さに敵うまい。
ぼうっとした頭で、そんなことを思った。