56話 Children’s happy day

「日本では、今日は子供の日なのよ」
 五月五日、特に何の変哲もない木曜日の午後、一緒にテラスで紅茶を飲んでいたマツリカが、ふと思い出したように言った。
「子供の日? なあに、それ」
「やっぱりダイアナは知らないわよね。えっと、確か元々は端午の節句とか言ったかしら。子供の健やかな成長を願う祝日でね、この日はお祝いの柏餅を食べたり兜を飾ったり鯉のぼりをあげたりするのよ」
「お祝いのお餅はまだ分かるけど、兜? 鯉のぼり? って何? どういう意味があるのかしら」
 私が首を傾げると、マツリカもつられたように同じ仕草をした。黒くて艶やかな髪の毛に陽光が反射して、とても綺麗。
「私も、男兄弟がいなかったから、詳しいことはよく分からないままなのよね。ひな祭りなら、小さい頃、よく祝ってもらっていたけれど」
「ひな祭り? それもお祭りなの?」
 マツリカが言うには、子供の日が男の子のための日なら、ひな祭りは女の子のための日らしい。
「なあんだ。それなら、子供の日は、子供と言っても、私たちのための日ではないのね」
 せっかくお兄様に話して、何かお菓子でも作ってもらおうと思ったのに。
 がっかりする私とは対照的に、マツリカは面白そうに微笑み、ティーカップを傾ける。
「そんなことはないわよ。別に、本来お祝いされる対象じゃないからお祝いしちゃいけないって話じゃあないもの。人の誕生日だってそうでしょう。お祝いパーティーで、祝う側もご馳走されるじゃない。それに確か、由来は男の子の健康を願っていたものだけれど、今は全ての子供たちのための日だって聞いたこともあるし……何だっていいのよ、楽しめるならそれで」
「マツリカ……」
 私はしげしげと、親友の顔を見つめる。
「あなた、やっぱりすごいわ」
「ふふ。どういたしまして」
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