7話 魂の形(天使について)
神は天使というものを作る時、一定のパターンを定めたようだ。それは、派遣する地域に住む人間に最も受け入れられやすい外見、というものだ。
温和さを示す、柔らかな表情。自然と笑みの形に結ばれる口元。多くの人間を安心させ惹きつける、大きく円い目。髪や肌の色はその地域で美しいと考えられるものになりがちで、西欧では金髪、アジアでは黒髪が多い。体格は、だいたいが細身。顔の造形はやはり美形が多いが、人間と必要以上の接触をすることのないように、印象は薄められている。つまり、天使と接触した人間は、別れた瞬間に相手がどんな容貌だったか思い出せなくなる。
しかし、人間以外にそれは無効だ。だから、悪魔であるおれには、天使の識別も区別もできる。まあ、おれにとっては、たった一人さえ識別できればそれで良い。
その、たった一人の外見の話だ。
ご多分に漏れず、西欧圏内で神に従事するあいつは、金髪に碧眼の持ち主だ。おれが初めてあいつと遭った時には、まだ若い地方教会の監査役という身分を持っていたので、幼さの残る見かけだった。が、現在は殆どおれと変わりない、二十代半ばの青年だ。
身長は百七十五センチくらいで、おれより頭一つ分ほど小さい。天使というのはいつもそうだが、あいつも白っぽい服を好んで身につける。昔は教会の人間らしい趣味の悪い華美な服装だったが、最近は簡素な白スーツや、そうでなければ単に白いシャツと単色のパンツを身につけている。
あいつのご主人サマの好みなのか、あいつ自身の魂の形が影響しているのか、あいつの見かけは全体的に少年のような雰囲気がある。成人男性にしては細く頼りない肩幅や、筋肉の目立たない肢体。どこまでも澄んだ晴天のような青い瞳はいつも軽く見開かれ、唇は汚れを知らない花弁の膨らみだ。
あの美しい頬が朱に染まり、潤んだ瞳がおれを見上げた時、危なく余計な力を使って時を止めるところだった。薄い布地越しに細い腰を撫でた時、怯えと微かな期待とに震えた長い睫毛を思い出すと、なぜあいつが今おれの腕の中にいないのかと叫びたくなる。
とは言え、肉体など単なる容器だ。人間に干渉するために用意された仮の姿に過ぎない。おれもあいつも必要とあらば姿など簡単に変えられるし、現にこれまでも何世紀かごとに完全に容姿を変えてきた。そしてきっと、これからも。
だが、例えあいつの外見がまた変わろうとも、おれはあいつのことを分からなくなったりはしない。初めて会った時に感じたあの光を、決して見失ったりしない。
そうして、ずっと見つめていれば……いつか触れられるだろうか。
あの光に。あいつの魂に。
温和さを示す、柔らかな表情。自然と笑みの形に結ばれる口元。多くの人間を安心させ惹きつける、大きく円い目。髪や肌の色はその地域で美しいと考えられるものになりがちで、西欧では金髪、アジアでは黒髪が多い。体格は、だいたいが細身。顔の造形はやはり美形が多いが、人間と必要以上の接触をすることのないように、印象は薄められている。つまり、天使と接触した人間は、別れた瞬間に相手がどんな容貌だったか思い出せなくなる。
しかし、人間以外にそれは無効だ。だから、悪魔であるおれには、天使の識別も区別もできる。まあ、おれにとっては、たった一人さえ識別できればそれで良い。
その、たった一人の外見の話だ。
ご多分に漏れず、西欧圏内で神に従事するあいつは、金髪に碧眼の持ち主だ。おれが初めてあいつと遭った時には、まだ若い地方教会の監査役という身分を持っていたので、幼さの残る見かけだった。が、現在は殆どおれと変わりない、二十代半ばの青年だ。
身長は百七十五センチくらいで、おれより頭一つ分ほど小さい。天使というのはいつもそうだが、あいつも白っぽい服を好んで身につける。昔は教会の人間らしい趣味の悪い華美な服装だったが、最近は簡素な白スーツや、そうでなければ単に白いシャツと単色のパンツを身につけている。
あいつのご主人サマの好みなのか、あいつ自身の魂の形が影響しているのか、あいつの見かけは全体的に少年のような雰囲気がある。成人男性にしては細く頼りない肩幅や、筋肉の目立たない肢体。どこまでも澄んだ晴天のような青い瞳はいつも軽く見開かれ、唇は汚れを知らない花弁の膨らみだ。
あの美しい頬が朱に染まり、潤んだ瞳がおれを見上げた時、危なく余計な力を使って時を止めるところだった。薄い布地越しに細い腰を撫でた時、怯えと微かな期待とに震えた長い睫毛を思い出すと、なぜあいつが今おれの腕の中にいないのかと叫びたくなる。
とは言え、肉体など単なる容器だ。人間に干渉するために用意された仮の姿に過ぎない。おれもあいつも必要とあらば姿など簡単に変えられるし、現にこれまでも何世紀かごとに完全に容姿を変えてきた。そしてきっと、これからも。
だが、例えあいつの外見がまた変わろうとも、おれはあいつのことを分からなくなったりはしない。初めて会った時に感じたあの光を、決して見失ったりしない。
そうして、ずっと見つめていれば……いつか触れられるだろうか。
あの光に。あいつの魂に。