55話 新しい光

 ダイアナ・エバ・クラークは、ただでさえ目立つ金髪のツインテールを揺らしながら、街路を歩いていた。パッと人目を惹く顔立ちはまず彼女に間違いなかったし、よく目を凝らせば、その体の奥に輝く魂の形も一致していることが分かった。
 初めは、何かの罠かとすら思った。それほどに、その姿は無防備だった。両親を殺した何者かがこの街にいるかもしれない、その相手に復讐してやりたい、といった思いとは完全に無縁の、穏やかな表情。 呑気のんきと言ってもいい。雑踏の中でその姿を捉えたまま立ち止まり、どうすべきか思案した。この数ヶ月、ずっと頭の片隅にあった懸念事項が、今ここで解消できるかもしれないのだ。
 どこかひとけのない場所へ誘い出して、始末してしまおうか。……しかし。
 首を振って、自分の 浅薄せんぱくな思考を否定する。
 すぐに命を奪うよりも、この数ヶ月の間あの小娘を匿っていた存在を特定する方が、よほど有益の筈だ。下手に手を出すよりも、それを見極めてから出方を考えた方が。そう思って、後をけ始めた矢先だった。
 あの悪魔が現れたのは。
 黒い前髪を掻き上げながら、男は小娘に話しかけた。声までは聞こえないが、唇の動きで会話の内容を掴むことはできる。どうやら、小娘が変身せずに外出していたのをとがめているようだった。小娘は素直に謝罪し、人間には感知されないような素早さで姿を変えた。……小娘は、あの男の使い魔になったのだ。
 口元が笑みの形に吊り上がるのを、抑えられない。これまでわたしが考えていたことの、ほぼ全ての空白がこれで埋まった。黒髪黒目のあの悪魔が小娘の逃亡を手助けし、使い魔にする契約を結んで命を救った、これで間違いない。失敗したまま終わりかけていた仕事を、完結させる 目処めどが立った。予想外に長引いてしまったが、これでどうにか。
 そして。
「悪魔の仕事の邪魔をするということが、どういうことか……知らない貴方ではないでしょう」
  俄然がぜんたのしくなってきた。
 黒い悪魔とその使い魔は、わたしの視線に気がつかないまま、人ごみの中に消えた。
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