54話 貴女は白い花
今日は、お兄様が朝から出かけてしまった。何だかとてもウキウキしていたから、きっとあの天使様の所へ向かったのだろう。それにしても、今日は平日だし、天使様はお仕事ではないのかしら。まあ、お兄様のことだから、何か計画があるんだろうとは思うけれど。
長かった冬がそろそろ終わる兆しが見えてきたこの頃は、暖かくなってきた気温につられるように、街中を歩く人が増えてきた。まだまだコートを着ていなくては寒いようだけれど(私はもう人間ではないから、寒いということがない)、それでも確実に近づいている春を、みんな心待ちにしているようだ。どこか浮き足立つような、そんな雰囲気。
実は私も、今日は楽しみなことがある。
部屋の姿見で、今の自分の姿をよく確認して、くるりとターンする。ふわふわと肩にかかる亜麻色の髪、胡桃色の瞳。アイビーグリーンのピーコートの下には、シンプルな白ニットと、黒いプリーツスカート。金髪で青い目の私とは全く違う顔が、こちらを見て微笑んでいる。
お兄様から特別に許可をいただいて、今日は、ある場所へお出かけするのだ。
『ダイアナ、もう行くのかい』
仲良しのコウモリが、扉の向こうから声をかけてくれる。
「ええ、もうそろそろ行くわ。家事を任せてしまって、悪いのだけど」
『そんなことは気にしなくていいさ。楽しんでおいで』
優しい声にお礼を言って、私は外へ通じる扉へ手を掛けた。今日はこのところずっと楽しみにしていた日なのだけれど、楽しみにしすぎていたせいか、少し緊張してきた。
大丈夫、大丈夫よ、ダイアナ。ちょっと前まで、普通に通ってた場所じゃない。
「行ってきます」
手に力を入れて、私は扉を開いた。
長かった冬がそろそろ終わる兆しが見えてきたこの頃は、暖かくなってきた気温につられるように、街中を歩く人が増えてきた。まだまだコートを着ていなくては寒いようだけれど(私はもう人間ではないから、寒いということがない)、それでも確実に近づいている春を、みんな心待ちにしているようだ。どこか浮き足立つような、そんな雰囲気。
実は私も、今日は楽しみなことがある。
部屋の姿見で、今の自分の姿をよく確認して、くるりとターンする。ふわふわと肩にかかる亜麻色の髪、胡桃色の瞳。アイビーグリーンのピーコートの下には、シンプルな白ニットと、黒いプリーツスカート。金髪で青い目の私とは全く違う顔が、こちらを見て微笑んでいる。
お兄様から特別に許可をいただいて、今日は、ある場所へお出かけするのだ。
『ダイアナ、もう行くのかい』
仲良しのコウモリが、扉の向こうから声をかけてくれる。
「ええ、もうそろそろ行くわ。家事を任せてしまって、悪いのだけど」
『そんなことは気にしなくていいさ。楽しんでおいで』
優しい声にお礼を言って、私は外へ通じる扉へ手を掛けた。今日はこのところずっと楽しみにしていた日なのだけれど、楽しみにしすぎていたせいか、少し緊張してきた。
大丈夫、大丈夫よ、ダイアナ。ちょっと前まで、普通に通ってた場所じゃない。
「行ってきます」
手に力を入れて、私は扉を開いた。