夢は変わる
大多数の人々にとって、夢というものが毎晩違うものらしいと知ったのは、今朝のことだった。「今日はこんな夢を見た」だの、「明日はこんな夢が見たい」だのと人が話しているのを聴いて、どういうことかと戸惑った末、情報を収集するうちに、そういうものらしいぞと理解することが出来たのだ。
それまで私は、夢というのは、毎晩、同じものを見るのだと思っていた。なぜなら、私がそうだったからだ。
眠りにつくと、私はいつも、同じ家の中にいる。時計はいつでも三時を指していて、ぼやけた窓の外に、光があるのかどうかも分からない。食卓についた私は、いつも同じケーキを食べている。誰かのバースデーケーキのようなのだが、それが私のためのものであるという確証はなかった。ケーキの上に、誰かの名前が書かれたチョコレートの板が載っているのだが、名前の部分だけ、夢が始まる前の私がバキバキに割ってしまったのか、読むことが出来ない。私は、誰を祝うものかも分からないバースデーケーキを、無心に頬張っている。
目の前の席には、人が座っている。夢の中でその人はいつでも後ろを向いていて、後ろを向いたままで私に話しかけている。とても楽しいお喋り。現実では繰り広げられないような、奇想天外なお喋りだ。ひとしきり喋り尽くし、ケーキを食べ尽くした頃に、目が覚める。それが私にとっての、夢というものだった。
けれど、なぜだか今日は違う。
ケーキの名前の部分が、今日はバキバキに割れてはいなかった。私はなぜだかその部分を直視できない。さっさと口に入れてしまおうと思っている。そう、そうしなさいよ、さっさと口に入れておしまいなさいよと、目の前の人が言う。いつも楽しい話をしてくれるその人は、今日はその言葉しか口にしない。そして、少しずつ、顔をこちらに向けている。
今まで見たことのなかった相手の顔が、徐々に私に向けられてゆく。時計の針が、初めて音を立てる。
それまで私は、夢というのは、毎晩、同じものを見るのだと思っていた。なぜなら、私がそうだったからだ。
眠りにつくと、私はいつも、同じ家の中にいる。時計はいつでも三時を指していて、ぼやけた窓の外に、光があるのかどうかも分からない。食卓についた私は、いつも同じケーキを食べている。誰かのバースデーケーキのようなのだが、それが私のためのものであるという確証はなかった。ケーキの上に、誰かの名前が書かれたチョコレートの板が載っているのだが、名前の部分だけ、夢が始まる前の私がバキバキに割ってしまったのか、読むことが出来ない。私は、誰を祝うものかも分からないバースデーケーキを、無心に頬張っている。
目の前の席には、人が座っている。夢の中でその人はいつでも後ろを向いていて、後ろを向いたままで私に話しかけている。とても楽しいお喋り。現実では繰り広げられないような、奇想天外なお喋りだ。ひとしきり喋り尽くし、ケーキを食べ尽くした頃に、目が覚める。それが私にとっての、夢というものだった。
けれど、なぜだか今日は違う。
ケーキの名前の部分が、今日はバキバキに割れてはいなかった。私はなぜだかその部分を直視できない。さっさと口に入れてしまおうと思っている。そう、そうしなさいよ、さっさと口に入れておしまいなさいよと、目の前の人が言う。いつも楽しい話をしてくれるその人は、今日はその言葉しか口にしない。そして、少しずつ、顔をこちらに向けている。
今まで見たことのなかった相手の顔が、徐々に私に向けられてゆく。時計の針が、初めて音を立てる。
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