夜の長さが丁度よいわけ

 夜は、全生命の合意のもとに行われる幻想だ。昼だけではあまりに世界が明るくて疲れてしまうから、暗い時間を設けることで、休息を取ることにしたのだ。
 しかし段々と夜が長くなるにつれ、生命たちは、こんな筈ではなかったと不平を漏らし始めた。夜は、昼の疲れをとれるだけの長さがあればいいので、あまり長くなってもらっては困るのだ。
 そういうわけで、全生命の代表として選ばれた一団が、夜の指揮者である月のもとへ向かった。彼らは各自のペースで歩き、飛び、跳ね、泳いで、月を目指した。月には幾通りものルートがあり、いつでも客を迎え入れる準備があった。
 月の土を最初に踏んだのはウサギだった。月はウサギを丁重にもてなし、月に住むウサギに餅を振る舞わせた。地球のウサギはそれをすっかり気に入ってしまい、二度と地球には戻らなかった。次に到着したのは蟹だった。蟹は月の海をいたく気に入り、地球に戻ることを忘れてしまった。三番目にやって来た鳩は月には食べるものがないと怒ってさっさと帰ってしまい、四番目にやって来た魚は蟹とともに海に居着いた。
 最後にやって来たのは人間だった。月は人間も丁重にもてなそうとしたが、人間は「そんなことよりも」と口を開いた。
「太陽が、あなたを狙っていますよ。今にも燃やし尽くそうと迫って来ていますよ」
 それを聞いた月は、慌てて宇宙を走る速度を上げた。照らされるだけならまだしも、燃やされては敵わない。
 お陰で、夜が過ぎる速度はまた元の通りになった。人間は、満足げに地球に帰って来た。
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