アイスを拭き取るように

 キョウチクトウの串をアウトドアっぽくて良いだろと作ったのは副部長で、私はいつも他の部員に良いように使われるばかりだったので肉を食べる暇も無く、気が付いたら倒れ伏す部員たちの中で右往左往していた。
 たっぷり一時間ほど右往左往した私は、部員たちの状態をよく確認したうえで救急車を呼び、搬送先の病院でも警察でも、取り乱した口調で、一貫した状況説明をした。使った道具はどれも小さかったのでこっそり手荷物に入れ、病院でのどさくさに紛れて処分してしまった。私の供述に合うように、副部長の手の皮膚からはキョウチクトウの小さな破片が見つかり、服にも、枝を細工した時のものであろう樹液が付着していたので、私の状況説明はすんなりと受け入れられ、念のための健康調査を受けて、その日中に家に帰ることが出来た。
 搬送された時点で、生存者は殆どいなかったようだった。私の計画は、九割は成功したと言って良い。しかし、あとの一割のせいで、達成感は無かった。途方もない徒労感が身体じゅうを支配している。
 何も無い部屋で床に寝転がって、天井を見上げる。
 今日の事件は、多分明日にでも報道されることだろう。それを見て、リンドウちゃんは何と言うだろう。モモ、よくやったな。モモ、やれば出来るじゃないか。それとも。
 ウチとエヤを逃した時点で大失敗だったな。
 例えば、リンドウちゃんが私がやっていたことを警察に申し出れば、全ては終わりだ。うまく行きかけていたことが、全て破綻する。どうしてこうなってしまったのだろう。いや、用意は完璧だった。計画自体も、特に問題は無かった筈だ。リンドウちゃんがあんなに早く川原に到着したというのが、悪かった。私に手落ちは無い。
 ……そう、そうだ。残りの一割を達成するのも、私の頑張りを認めてもらうのも、どちらも達成する手立てが、あるじゃないか。
「……ふふ」
 自然と笑みがこぼれた。
 なんだ、こんなにも簡単なことなのに、どうして今まで気が付かなかったのだろう。リンドウちゃんとエヤ君が、まだ生きていて、それが弊害になるのなら、導き出される解は一つだ。
 
 その日の夜は、人生で初めて、悪夢にうなされずにぐっすり眠ることが出来た。
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