アイスを拭き取るように

 楽しいバーベキューは、一人、また一人と倒れ苦悶する部員たちの呻き声と共に終了した。キョウチクトウって、本当に凄いんだ。私は自分が立てた計画の結果の、あまりの鮮やかさに目をみはった。倒れた部員は、呻き声の合間に腹痛を訴え、その最中にも、さっき食べたばかりの肉やジュースを嘔吐している。嘔吐していなくても、青ざめた顔で、テーブルに突っ伏している部員もいる。さっきまではしゃいで川遊びをしていた部員たちは水の中から這い上がってこれず、中には見る間に下流へ流されて行ってしまった人もいる。なるほど十人十色とはよく言ったものだ、同じ毒に触れても、苦しみ方は人それぞれなのだ。
 私はそんな部員たちの中から、リンドウちゃんの姿を探した。願わくは、まだリンドウちゃんに意識がありますように。そして、これが私のやったことだと知って、驚いてくれますように。私にも出来た。自分のいる所から抜け出すために、私にもこんなことが出来たんだよ、リンドウちゃん。
 けれど、くまなく探しても、リンドウちゃんの姿は見当たらなかった。ついでに、エヤ君の姿も。もしかしてトイレに行ったのかと思って近所のスーパーまで足を延ばしてみたけれど、やっぱりいない。あの二人が川で遊んでいた覚えは無い。ただ、肉を食べているところは見た。二人とも、一時間ほど前までは確かに、アウトドアチェアに座っていたはずだ。
「いない……」
 思わず、誰も聞いてやいないのに、声に出してしまった。リンドウちゃんが、いない。きっとあの時、私がしていることを見ていたのだ。頭の良い彼女のことだ、エヤ君をつれて帰ってしまったのだ。
 そんな、そんなことってあるだろうか。こんなことまでしたのに。
 私は目の前で倒れ伏す副部長の背中が、細かく震えるのを殴りつけたくなった。目障りだ。リンドウちゃんがいないことに気が付いてからは、周囲に漂う死の気配が腹立たしい茶番にしか思えなくなっていた。私は自分の置かれた場所から抜け出すために、こんな賭けまでしたと言うのに、それを教えてくれたリンドウちゃんがいないんじゃ意味が無い。リンドウちゃんに、驚いて欲しかったのに。そうか、モモもやっぱりやれば出来るな、と、その一言が欲しかったのに。肝心のリンドウちゃんがいないのでは、逃げてしまったのでは、意味が無いじゃないか。
「くそっ……くそ、くそ、くそ、くそ」
 口から洩れる呪詛を止められない。キョウチクトウの枝で万が一にも自分の手を傷つけたり、漏れる樹液が目に入ったりしないように細心の注意を払って、用意したのに。経験のない植物の剪定も園芸の本と首っ引きで勉強したし、道具を調達するときには身元がばれないように簡単な変装までして、この数週間、頑張ったのに。
 頑張ったのに、それを認めてくれる人が、いない。
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