アイスを拭き取るように

 それから、私は授業中もこっそりスマホを使って、目的を遂げるための手段について調べ始めた。ブラウザの検索履歴が瞬く間に物騒な言葉だらけになっていくけれど、仕方ない。全て終わったら消去すれば良い。部活は相変わらずで、リンドウちゃんとエヤ君以外の顔をグラウンドで見ることは無かったけれど、時々、副部長に使い走りを頼まれることがあった。すぐに変わることは出来ないから、私はやっぱりうまく笑えないし、笑顔は引きつり、言葉はどもる。けれど、次の親睦会が終われば、私は変われる筈だ。
 結局、色々考えた結果、親睦会は野外でのバーベキュー大会にした。容易に毒を入手できる訳もなく、かと言って人を殴ったり刺したりという重労働はしたくない私にとって、キョウチクトウが近隣に自生している川原は丁度良い場所だった。植物の中でもキョウチクトウの毒性は強く、過去に幾度も事故が起きている。もちろん、薬とは違うから、毒が人に必ず作用すると言い切れるわけではない。だから、これは一種の賭けだった。だけど、私は今回の賭けで負けても、構わないのだ。チャンスは幾らだってあるし、他にも色々調べてあるのだから。
 そうして、親睦会の当日になった。私は他の部員より早く川原に到着して、近所のスーパーで飲み物を調達してクーラーボックスに入れ、紙皿や紙コップなどもすぐに用意できるよう準備した。それだけやっても、まだ待ち合わせ時刻の一時間も前だ。誰も来ないのを確認して、私は軍手にゴム手袋と剪定ばさみとヤスリを持って、ゴーグルまでつけて、事前に調べていた通り生えていたキョウチクトウに近づいた。それからの作業は地道だったけれど、思えば私の人生の中で最も楽しい時間だったかもしれない。没頭していた時、後ろから誰かが近づいてくる音がした。
「モモ、何やってるんだ」
「あ、り、リンドウちゃん。ううん、何にも」
 急ごしらえの串を後ろ手に隠して、首を振る。リンドウちゃんは「ふうん」と興味無さそうに首を傾けた。
「そろそろ他の奴らも集まってくるだろうから、早く来なよ」
「う、うん。そうする。ありがとっ」
 そのままリンドウちゃんは立ち去った。リンドウちゃんの無関心と、私自身の目立たなさに感謝しなくてはいけない。安堵した私は、残りの串づくりに取り掛かった。バレる訳にはいかない。特にリンドウちゃんには、今の段階でバレる訳には。
4/6ページ
スキ