アイスを拭き取るように

 思えば、小さな頃からこうだった。保育園ではみんなとうまく遊べなくて、先生とばかり遊んでいた。その先生にさえ、心の底から打ち解けられたことは無かった気がする。幼稚園に入ってもそれは変わらず、小学校に入った時にはもう、誰かと対等に話をするなんてことは不可能ごとだった。いつだって、私にとって他の人たちは私より上で、他の人たちにとって私は下だった。小学校高学年の頃にはもう、下級生にも軽んじられて、宿題を何人分も任されたり、毎日の掃除当番を一人でやらされたり、委員会活動ではやりたくもない部長をやらされたり。それでも、誰かが私を殴るだとか、靴を隠されるだとか、そういうことは一切無かった。そういう対象にすらならないのが私なのだ。
「でさあモモちゃん、今度の親睦会のスケジュールなんだけど、全部任せちゃって良い?」
 賑やかな食堂で、副部長が言う。
「す、スケジュールですか。ど、どこに行くとかは」
「悪いんだけどさ、それもモモちゃんに任せるよ。全部モモちゃんプロデュースで」
「あ、はい。分かりました……」
 年に数度の親睦会は、部員全員がほぼ強制で参加させられる、恒例のイベントだ。次の開催予定は一カ月後だから、確かにそろそろ場所や形式を考えなくてはいけない。私はマネージャーだから、そういう仕事を任されるのもおかしなことではない。ただ、どこに行くのかくらいは、部長や副部長に考えておいて欲しいところではある。
「また前みたいに、料金の割に量の少ない居酒屋なんてのはやめてくれよ」
 思わず、びくっと肩が上がる。前、と言うのは四月の新歓のことだ。あの時も、今回みたいに私にすべて任せると言われ、色んな情報サイトを見てどうにかお店の予約をした。それが、副部長をはじめとした多くの部員から不評を買ったのだ。
「で、ですね……! じゃ、じゃあ何か皆さん、やりたいこととか食べたいものとかありますかっ」
 新歓の二の舞は避けたいと、私は、私にしては頑張って、そう尋ねた。しかし、私の決死の一言は、彼らにとっては食堂の騒音と変わりなかったらしい。何も聞こえなかったように無視され、それから暫く座っていたけれど誰にも何の言葉も掛けられなかったので、私はそのままひっそりと、グラウンドへ向かった。
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