草むしりバレンタイン
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バレンタイン当日、チグサは廊下で捕まえたモモに、チョコの入った小箱を渡した。可愛い桃色をしたハート型の箱を手に、モモは軽く目を見開いた。
「これ、私に?」
「うん。この間、励ましてくれて嬉しかったし。友チョコ」
「ありがとう」
モモは微笑み、鞄の中から似たような小箱を取り出した。
「実は私もね、野木さんにあげようと思って買ってたの」
「え……本当、ありがとう! 嬉しい」
渡されたのは緑色の掌サイズの箱で、有名なブランドのロゴが入っている。チグサは喜んで受け取りながら、自分程度の付き合いの人間にこんなチョコを用意するモモは、やはり友達が少ないのだろうな、とちらりと思った。
「お家で味わって食べてね」
「うん。ありがとう、モモちゃん」
モモの笑顔を、チグサは善意の表れと解釈した。そこに悪意は、確かにないように思えた。自分の中の微かな罪悪感がそう思うように仕向けた傾向は僅かながらあったかもしれないが、チョコを贈り合う日にチョコを贈られて、そこに悪意を見いだせる者の方が少ないだろう。
その夜、チグサは一人暮らしのアパートの一室で、用意した紅茶と、今日、人からもらったチョコとを少しずつ口に含んでいた。ミルク系のチョコや、苦味の中に豊かな風味のあるブラックチョコ、遊び心のある可愛らしい星型のチョコなど、贈り主の性格も出るひと粒ひと粒を、楽しくつまんでいく。
やがてチグサの手は、モモから贈られたチョコにたどり着いた。一口サイズの小さな正方形のチョコが、箱にぎっしり一ダース分詰まっている。味も申し分のない美味しさで、瞬く間にひと箱分、食べ切ってしまった。
ちょっと食べ過ぎたかな、と、空の箱の山を見つめながらチグサが思ったとき、胃が痛む気配がした。やはり、流石に何箱分も一気に食べるのは良くなかったか。
次の瞬間、腹痛の度合いが一気に増した。ただの胃痛ではない。内臓をぎゅっと絞られているような強い痛み。あまりにもひどい痛みに、呼吸すらできなくなる。
え、え、これ何、何の痛み?
視界が暗くなり、また明るくなり、照明のスイッチを誰かがいたずらに乱打しているかのように、世界が明滅する。座っていられず、自分を抱くようにして、チグサは床に蹲った。その拍子に、チョコの空き箱も床に転げ落ちる。体が胃の中のものを拒絶しているのが分かった。指を喉に突っ込んで吐こうとするが、痛みが強過ぎて、うまく吐けない。次第に、自分が何をしているのか、しようとしているのかすら分からなくなってくる。気持ちが悪い、腹が痛い、世界がぐるぐると回転している……。
「う、ぐぐ、ぐぐうっ……」
一向にひかない、それどころか刻一刻と強さを増す痛みに、チグサの意識は遠のいていく。彼女の最後の視界に、緑の小箱が映る。蓋の裏のメッセージが、チグサの脳裏に焼き付く。
『目が回るほど美味しいチョコだよ! 楽しんでね! モモ』
「これ、私に?」
「うん。この間、励ましてくれて嬉しかったし。友チョコ」
「ありがとう」
モモは微笑み、鞄の中から似たような小箱を取り出した。
「実は私もね、野木さんにあげようと思って買ってたの」
「え……本当、ありがとう! 嬉しい」
渡されたのは緑色の掌サイズの箱で、有名なブランドのロゴが入っている。チグサは喜んで受け取りながら、自分程度の付き合いの人間にこんなチョコを用意するモモは、やはり友達が少ないのだろうな、とちらりと思った。
「お家で味わって食べてね」
「うん。ありがとう、モモちゃん」
モモの笑顔を、チグサは善意の表れと解釈した。そこに悪意は、確かにないように思えた。自分の中の微かな罪悪感がそう思うように仕向けた傾向は僅かながらあったかもしれないが、チョコを贈り合う日にチョコを贈られて、そこに悪意を見いだせる者の方が少ないだろう。
その夜、チグサは一人暮らしのアパートの一室で、用意した紅茶と、今日、人からもらったチョコとを少しずつ口に含んでいた。ミルク系のチョコや、苦味の中に豊かな風味のあるブラックチョコ、遊び心のある可愛らしい星型のチョコなど、贈り主の性格も出るひと粒ひと粒を、楽しくつまんでいく。
やがてチグサの手は、モモから贈られたチョコにたどり着いた。一口サイズの小さな正方形のチョコが、箱にぎっしり一ダース分詰まっている。味も申し分のない美味しさで、瞬く間にひと箱分、食べ切ってしまった。
ちょっと食べ過ぎたかな、と、空の箱の山を見つめながらチグサが思ったとき、胃が痛む気配がした。やはり、流石に何箱分も一気に食べるのは良くなかったか。
次の瞬間、腹痛の度合いが一気に増した。ただの胃痛ではない。内臓をぎゅっと絞られているような強い痛み。あまりにもひどい痛みに、呼吸すらできなくなる。
え、え、これ何、何の痛み?
視界が暗くなり、また明るくなり、照明のスイッチを誰かがいたずらに乱打しているかのように、世界が明滅する。座っていられず、自分を抱くようにして、チグサは床に蹲った。その拍子に、チョコの空き箱も床に転げ落ちる。体が胃の中のものを拒絶しているのが分かった。指を喉に突っ込んで吐こうとするが、痛みが強過ぎて、うまく吐けない。次第に、自分が何をしているのか、しようとしているのかすら分からなくなってくる。気持ちが悪い、腹が痛い、世界がぐるぐると回転している……。
「う、ぐぐ、ぐぐうっ……」
一向にひかない、それどころか刻一刻と強さを増す痛みに、チグサの意識は遠のいていく。彼女の最後の視界に、緑の小箱が映る。蓋の裏のメッセージが、チグサの脳裏に焼き付く。
『目が回るほど美味しいチョコだよ! 楽しんでね! モモ』
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