草むしりバレンタイン
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呉竹モモは、悪い子じゃない。少なくとも、悪いことを考えても実行に移すなんてことはあり得ない、という意味では普通に善良だと、チグサは思っていた。だって、あのモモちゃんだ。決して人を笑わせるつもりで笑われている訳ではなくても相手に同調して卑屈な笑みを浮かべ、常に人の顔色を伺って自分の行動を決定し、びくびくおどおどし通しの、モモちゃんだ。
悪いことなんて、できる筈がない。
だから、陸上部の面々が野外バーベキューを行った際に誤ってキョウチクトウの串を使い、多くの部員が中毒死したニュースを見た時も、チグサはまず、顔見知りであるモモの心配をした。串を作ったのは副部長だったという話なので、きっとその際、彼女は串を配り歩いたろうし、試しにと、真っ先に串を使わされたかもしれない。
チグサはモモのことを特別に仲が良いと思っているわけではなかったし、どうしてああも自己主張をしないのかとイライラすることすらあった。しかし、彼女が死んでも良いと思ったこともなかった。
中毒事故のニュースが流れた翌月曜日にモモの姿を見かけて、チグサがホッとしたのは、そういう訳だった。しかし、廊下で声をかけたチグサは、何か違和感を覚えた。
「ああ、野木さん。おはよう。どうかした?」
チグサの方を向いたその顔は、特に何の変哲もない。大きな目が際立つ童顔は、やつれている訳でも、疲れ切っている訳でもない。……それなのにどうしてだろう。チグサの胸に、正体不明のもやもやが渦を巻く。
「いや……モモちゃん、大変だったんじゃないかなと思って。ほら、こないだの……バーベキューの」
きょとんとしていたモモだったが、その言葉に「ああ」と頷いた。
「うん、凄く大変だったよ。思ってたのより上手くいかなかったし」
「上手く……?」
どうも、話が噛み合っていない。チグサの顔に疑問符が浮かぶ。モモは深く説明しようともせず、ただチグサが見たことのない表情を浮かべている。
笑顔、に限りなく近い、しかしそれよりもっと……。
「それじゃあ次の講義があるから、私は行くね。また今度」
「え、ああ……うん。えっと……気を落とさないでね、モモちゃん」
モモはさっさと行ってしまった。チグサは先ほどからの違和感がどんどん強まっていくのを不思議に思って暫く立っていたが、やがてひとつ、違和感の原因に思い至った。
「あの子、一度も噛まなかったな……」
悪いことなんて、できる筈がない。
だから、陸上部の面々が野外バーベキューを行った際に誤ってキョウチクトウの串を使い、多くの部員が中毒死したニュースを見た時も、チグサはまず、顔見知りであるモモの心配をした。串を作ったのは副部長だったという話なので、きっとその際、彼女は串を配り歩いたろうし、試しにと、真っ先に串を使わされたかもしれない。
チグサはモモのことを特別に仲が良いと思っているわけではなかったし、どうしてああも自己主張をしないのかとイライラすることすらあった。しかし、彼女が死んでも良いと思ったこともなかった。
中毒事故のニュースが流れた翌月曜日にモモの姿を見かけて、チグサがホッとしたのは、そういう訳だった。しかし、廊下で声をかけたチグサは、何か違和感を覚えた。
「ああ、野木さん。おはよう。どうかした?」
チグサの方を向いたその顔は、特に何の変哲もない。大きな目が際立つ童顔は、やつれている訳でも、疲れ切っている訳でもない。……それなのにどうしてだろう。チグサの胸に、正体不明のもやもやが渦を巻く。
「いや……モモちゃん、大変だったんじゃないかなと思って。ほら、こないだの……バーベキューの」
きょとんとしていたモモだったが、その言葉に「ああ」と頷いた。
「うん、凄く大変だったよ。思ってたのより上手くいかなかったし」
「上手く……?」
どうも、話が噛み合っていない。チグサの顔に疑問符が浮かぶ。モモは深く説明しようともせず、ただチグサが見たことのない表情を浮かべている。
笑顔、に限りなく近い、しかしそれよりもっと……。
「それじゃあ次の講義があるから、私は行くね。また今度」
「え、ああ……うん。えっと……気を落とさないでね、モモちゃん」
モモはさっさと行ってしまった。チグサは先ほどからの違和感がどんどん強まっていくのを不思議に思って暫く立っていたが、やがてひとつ、違和感の原因に思い至った。
「あの子、一度も噛まなかったな……」