ワンルーム・トラベラー

 昨日まで住んでいた古い木の匂いのするアパートとは違い、新しい壁紙の匂いがする新居を、おれはもう一時間ほど見回していた。小さな機械を持った手が、期待と緊張で小刻みに震える。
 本当にこれで、「室内旅行」など出来るのだろうか。やはりこれは壮大なインチキで、人を食ったドッキリ企画で、このボタンを押した途端、おれの落胆ぶりが全世界に放送されるという趣向なのではないか……。
 一旦落ち着くため、おれは機械をテーブルに置いて深呼吸をした。そして、この部屋の居住権を獲得した二週間前のことを、ゆっくり思い出す。
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