星に名前なんて要らない

 彼は死んだ。
 僕よりも二歳年下だったはずだから、享年は四十五歳。
 死亡したことを知ったのは、同じく天文部の後輩から簡単なメールがきたことによる。死んだことは分かったが、僕はあいにく彼の住所も電話番号も、葬儀会場も知らない。だから、彼がどういう顔で死んだのかは分からない。
 でも、彼は、あの時歪めた、あの表情のままで死んでいったのではないかと僕は思っている。誰かに理解してもらいたかった彼は、哀しそうに、たった一人で死んでしまった、きっとそうに違いない、と、僕には思えてならないのだ。そして、彼が死んだ原因は、僕にあるのではないかとも。
 それは本当は遠く、小さな、原因の一つとも言えないような、取るに足りないものなのかもしれない。けれど、あの会話が遠因となって、彼は死んだのではないか、という思いは、いつでも僕の頭をよぎる。そしてその考えだけが、パズルのピースがかちりと合ったような、すっきりとした解答――唯一つの――なのではないかと、思えてならないのだ。

 星は遠い。
 永遠に触れることは出来ない。

 見上げる夜空に、僕は名前を求めることを止めた。
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