二重葬列

 好きなものが、いつも被る奴だった。小銭を握りしめて向かった駄菓子屋では二人とも必ず楊枝入りの寒天餅を選んだし、戦隊モノでは必ず同じレンジャーを好きになった。同じ先生に憧れて、同じスニーカーを履いて、同じ大学を目指していた。
 でも今、俺は生きていて、あいつは死んでいる。
「なんか、ごめんね……付き合わせちゃって」
 蝉時雨が降り注ぐ真夏の昼、まるで現実味のない声と、言葉通り申し訳なさそうに項垂れる同級生の姿がゆらめく。濃い、緑の影があいつの上に落ちる。
「や、いや、別に暇してたし、うん、そう、暇してたし」
 同級生が昨晩用意したというビニールシートの上に、あいつの硬くなった体が載っている。蟻の行列。
 そう、好きなものがいつも一緒だった。好きな教科、目指したい学問、好きな音楽、行きたいライブ、漫画に小説に芸能人に。
「ぼく、ダメなんだよね、昔から。虫とかそういうの」
 あ、俺もダメ、飛んでこっちに向かってきたりしたら反射的に手とか出ちゃうよな、なんて舌を動かす俺を見ないまま、同級生の華奢な腕がビニールシートを器用に折り畳む。
 あいつの頭が見えなくなった。
「だからさ、ぼくもこいつも男なのに、ぼくのことが好きとか言うからさ、つい気持ち悪くなってさ」
 ああ、分かる分かる、払い落としたくなったんだろ、うん、分かる分かる、分かるナア。
 俺の舌はべらべら回る。体の芯から冷たくなって、まるで俺があいつみたいじゃないか。
「本当、巻き込んでごめん。……でも君なら、絶対手伝ってくれると思ったんだ」
 そりゃあそうだろ、俺は。
 俺はまさしく適任だよ。
 掘り立ての穴の中に、あいつを包んだビニールシートを蹴落とした。土をかけながら、飲み込んだ言葉を一緒に埋める。
 知ってるか。虫は光に引き寄せられるんじゃない。光に狂わされるんだ。
「…………」
 本当に、好きなものがいつも被る奴だった。
「何かお礼をしなくちゃな」
 同級生が、額の汗を拭う。俺は手を休めて、暫く空を見た。
 清々しく宇宙まで突き抜けるような、入道雲を見ていた。
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