桜は朝陽に薫った

「お前は私の桜よ」
 優しい声に、わたしの世界が光で満たされる。本物の桜を知らない、この人はここから出られず、最近は眠ってばかりだ。
 月の夜、わたしは初めて籠から抜け出た。窓から飛び立ち桜枝を咥えて戻り、枕辺に置いた。
 それはもう起こらないと気づく明け方まで、私はその目覚めを待っていた。
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