まだ透明にならないで

「私このまま透明になるわ」
 朝、出勤間際に言われて足を止めた。僕らの体はこの世への執着が薄くなると透けて、やがては消えてしまう。
 やつれた顔を窓の光が貫く。幸せにすると誓った時を唐突に思い出す。なのに僕は、彼女の顔をまともに見てすら。
 細い体を抱きしめると、部屋が少しだけ暗くなった。
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