幼馴染
ある晴れた日の午後だった。
サユリとエミは子供の頃そうしていたように、草原に並んで座っていた。陽光が彼女たちを平等に照らしている。エミは隣の少女を、気付かれないように盗み見た。彼女の髪は黒々としていて、とても健康そうに見える。その手触りがとてもさらさらとしていて、そして柔らかいものであることを、エミは知っていた。今、その髪の持ち主はおだやかな表情を浮かべて前方を見ている。
エミは次いで、自らの髪の毛に手を伸ばした。それは赤茶けていて、できそこないの人形の髪の毛のように映った。彼女は不意に顔を歪めたが、それはほんの一瞬のことであって、サユリは気付いた様子を見せない。
「で、何よ、相談ごとって」
エミは自分の髪の毛から手を離して、ぶっきらぼうともとれるほど素っ気無い語調で言った。サユリは前方に目を据えたまま、ただ黙っている。エミは明らかにいらついた様子で、尚も言葉を重ねた。
「私、これでも忙しいの。あんたのために時間をつくってやってるのよ」
「うん、有難う、エミちゃん」
サユリはにっこりと微笑んで、エミにその白く美しい歯並びを向けた。エミは顔を背けて、礼なんていらないわよ、と小声ではっきりと言った。サユリはまた前方に向き直って、秘密ごとを打ち明ける調子で言った。
「エミちゃん、私ね、告白されちゃった」
「…………」
エミは目を細めて、高い空を見つめる。眉間にしわを寄せ、唇が白くなりそうなほどに噛みながら。サユリはそれでもエミの表情に一向注意を払わず、恥ずかしそうに、しかしそれ以上に嬉しそうに、エミに習って空を見上げた。
「誰にだと思う?」
「知らないわよ」
エミは、サユリが自分と同じように空を見上げているのに気付き、すぐに下を向いて、足元の草をむしり始めた。サユリはまだそれに気付かない。彼女は空を見上げたまま、エミがそこにいることを忘れたような表情――いわゆる夢見るような表情――になり、学校の、ある男子生徒の名前を呟いた。その途端、エミは一言も発さずに、飛び上がるように立ち上がった。あまりに素早く、あまりに音もなく立ち上がったので、サユリはそれに反応するのが少し遅れた。
「どうしたの」
と、彼女は言おうとした……だが、一筋の閃光が、彼女の視力を奪った。サユリはものも言わずに、その場に崩れ落ちた。エミはその苦悶をじっと、水溜りの中であえぎもがく昆虫を見るような無感動な視線でもって眺めていたが、やがて手に持っていた物を投げ出して、脱兎のごとく駆け出した。
よく晴れた日の午後だった。
サユリとエミは子供の頃そうしていたように、草原に並んで座っていた。陽光が彼女たちを平等に照らしている。エミは隣の少女を、気付かれないように盗み見た。彼女の髪は黒々としていて、とても健康そうに見える。その手触りがとてもさらさらとしていて、そして柔らかいものであることを、エミは知っていた。今、その髪の持ち主はおだやかな表情を浮かべて前方を見ている。
エミは次いで、自らの髪の毛に手を伸ばした。それは赤茶けていて、できそこないの人形の髪の毛のように映った。彼女は不意に顔を歪めたが、それはほんの一瞬のことであって、サユリは気付いた様子を見せない。
「で、何よ、相談ごとって」
エミは自分の髪の毛から手を離して、ぶっきらぼうともとれるほど素っ気無い語調で言った。サユリは前方に目を据えたまま、ただ黙っている。エミは明らかにいらついた様子で、尚も言葉を重ねた。
「私、これでも忙しいの。あんたのために時間をつくってやってるのよ」
「うん、有難う、エミちゃん」
サユリはにっこりと微笑んで、エミにその白く美しい歯並びを向けた。エミは顔を背けて、礼なんていらないわよ、と小声ではっきりと言った。サユリはまた前方に向き直って、秘密ごとを打ち明ける調子で言った。
「エミちゃん、私ね、告白されちゃった」
「…………」
エミは目を細めて、高い空を見つめる。眉間にしわを寄せ、唇が白くなりそうなほどに噛みながら。サユリはそれでもエミの表情に一向注意を払わず、恥ずかしそうに、しかしそれ以上に嬉しそうに、エミに習って空を見上げた。
「誰にだと思う?」
「知らないわよ」
エミは、サユリが自分と同じように空を見上げているのに気付き、すぐに下を向いて、足元の草をむしり始めた。サユリはまだそれに気付かない。彼女は空を見上げたまま、エミがそこにいることを忘れたような表情――いわゆる夢見るような表情――になり、学校の、ある男子生徒の名前を呟いた。その途端、エミは一言も発さずに、飛び上がるように立ち上がった。あまりに素早く、あまりに音もなく立ち上がったので、サユリはそれに反応するのが少し遅れた。
「どうしたの」
と、彼女は言おうとした……だが、一筋の閃光が、彼女の視力を奪った。サユリはものも言わずに、その場に崩れ落ちた。エミはその苦悶をじっと、水溜りの中であえぎもがく昆虫を見るような無感動な視線でもって眺めていたが、やがて手に持っていた物を投げ出して、脱兎のごとく駆け出した。
よく晴れた日の午後だった。
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