この先ずっと
朝八時。細く開いたカーテンの隙間から、冬の淡い日差しが差し込んでいる。耳を澄ませば、アパートの隣の公園から、小鳥の囀りさえ聞こえてくる筈だ。だが、今の一途にはそんな暇はない。昨晩遅くまで今朝使う会議資料の作成をしていたせいで、スマートフォンのアラームにも気がつかず寝こけていたのだ。
慌ててネクタイを締め、その片手間に栄養ドリンクだけ飲んで、鞄をひっつかんで大股で玄関まで歩く。そう広くもない部屋なのに、それだけが凄い距離に思えてしまう。整った顔に焦りを浮かべて玄関ドアに手を掛けた時、一途を後ろから呼び止める声があった。
「兄さん」
勢いよく振り向くと、空がUSBメモリを差し出していた。自分とほぼ変わりない身長の弟の後ろから日の光が差していて、一途は眩しげに目を細めた。恐らく空がカーテンを開けたのだろう。
慌ただしく出勤の用意をする兄がたてる物音に起こされたようだが、空は嫌そうな表情ひとつせず、穏やかに微笑んだ。
「忘れ物」
「あ、ありがとう空。今日は早く帰ってくるから。行ってきます」
そう言えば、受験の用意とかで昨晩から泊まりに来ていたんだった。
一途は空が来ていたことも忘れるほど慌てていたことに可笑しくなりながら、玄関のドアを閉めた。
慌ててネクタイを締め、その片手間に栄養ドリンクだけ飲んで、鞄をひっつかんで大股で玄関まで歩く。そう広くもない部屋なのに、それだけが凄い距離に思えてしまう。整った顔に焦りを浮かべて玄関ドアに手を掛けた時、一途を後ろから呼び止める声があった。
「兄さん」
勢いよく振り向くと、空がUSBメモリを差し出していた。自分とほぼ変わりない身長の弟の後ろから日の光が差していて、一途は眩しげに目を細めた。恐らく空がカーテンを開けたのだろう。
慌ただしく出勤の用意をする兄がたてる物音に起こされたようだが、空は嫌そうな表情ひとつせず、穏やかに微笑んだ。
「忘れ物」
「あ、ありがとう空。今日は早く帰ってくるから。行ってきます」
そう言えば、受験の用意とかで昨晩から泊まりに来ていたんだった。
一途は空が来ていたことも忘れるほど慌てていたことに可笑しくなりながら、玄関のドアを閉めた。