チョコの効能

「はぁっ……んっ……」
 チョコは殆ど無くなってしまったが、その余韻にくらくらする。どくどくと脈打つ音が、耳に煩い。唇を重ねるごとに空が漏らす喘ぎの端を摘み取って、おれはその甘さに酔った。全身がじんわりと熱く、汗が滲む。それは空も同じらしく、おれの腕の中に収まった身体が、その熱をどこかへ逃したいかのように、もどかしく動いた。その度に空が動かす手がおれの背筋を撫で上げて、柔らかな官能を生む。堪らず呻いたおれを逃すまいと、空はますます激しく、おれの唇に吸い付いた。
 興奮と熱でぼうっとする頭の奥で、これ以上はダメだと、かろうじて残っていたらしい理性が警鐘を鳴らす。が、おれの意識はそちらに向くことが出来ない。目の前で息を切らせながら、長い睫毛を震わせておれを求めてくれる空が、愛おしくて仕方がない。
「んっ……兄さん……好き……大好きだよ」
 口づけの合間に、空はそう繰り返した。それが、自分の気持ちを伝えるというよりも、おれを肯定するために発された言葉であることを、直感的に理解する。
「空、おれもだ……おれも空が大好きだよ。空がいてくれるだけで、他には何も……」
 おれは空の唇から逸れて、その首筋に顔をうずめた。
「あ……んっ……くすぐったい」
 空がもどかしげに頭をのけぞらせると、その白い喉元が露になる。おれはそこに舌を這わせ、そのままワイシャツのボタンを外し、鎖骨の辺りまで唇を落とした。
「ん、ふっ……」
 切なげな息を漏らす空は、くすぐったさと心地よさの間で揺蕩っているようだ。その手が何度もおれの腰の輪郭をなぞって、もっと深みにはまろうと誘いかけてくる。ざわざわと落ち着かない自分の下腹部を意識しながらも、おれはその誘惑をどうにか払い除け、空の白い首筋に、自分の情念の跡を幾つも残した……。
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