名探偵はお嫌いですか?
「それで。覆水先生、また殺人事件を未然に防いでしまいましたね」
「そうだねぇ」
覆水探偵事務所、と小さな看板が掲げられた事務所内で、覆水と、もう一人、眼鏡をかけた女性が話していた。女性は長い髪の毛を二つで結んでいるが、可愛らしさとは無縁の、凛々しい顔立ちをしている。彼女は手に持った札束を一枚一枚数え、言う。
「でも、まあこれだけ報酬は頂きましたし。良しとしておきましょう」
「でしょ」
覆水は長いすに寝そべり、まぶたを閉じた。
「でも覆水先生。いつになったら探偵的手腕を発揮なさるおつもりなんです。こうも殺人事件を未然に防いでばかりいては、その灰色の脳細胞も使われずじまいに終わってしまいます」
「良いんだよ、それで。私のは名探偵的手腕だからね。名探偵というものは、殺人事件が起きる前にそれを解決してしまうものなのさ。灰色の脳細胞なんて、使わずに済むならそれが一番だよ」
覆水は穏やかに、そう言った。
「でもまあ、今回のは一つの石で二鳥を得たようなものだったね。彼女が先永美寿寿さんだってことに気付いたのは、声をかけた後だったから」
「それでまあ、よくああも言いくるめられましたね。最初、見ていて痛々しかったです」
女性は、先永美寿寿が覆水にした数々の仕打ちを思い出したのか、形のいい眉をひそめた。それでも、覆水はあっけらかんとしている。
「良いんだって。結果オーライさ。名探偵は、凡人の非道な仕打ちなんぞに負けはしないんだ」
「そういうものですか……」
女性は感心したように覆水を見つめ、また札束を数え始めた。
「そうだねぇ」
覆水探偵事務所、と小さな看板が掲げられた事務所内で、覆水と、もう一人、眼鏡をかけた女性が話していた。女性は長い髪の毛を二つで結んでいるが、可愛らしさとは無縁の、凛々しい顔立ちをしている。彼女は手に持った札束を一枚一枚数え、言う。
「でも、まあこれだけ報酬は頂きましたし。良しとしておきましょう」
「でしょ」
覆水は長いすに寝そべり、まぶたを閉じた。
「でも覆水先生。いつになったら探偵的手腕を発揮なさるおつもりなんです。こうも殺人事件を未然に防いでばかりいては、その灰色の脳細胞も使われずじまいに終わってしまいます」
「良いんだよ、それで。私のは名探偵的手腕だからね。名探偵というものは、殺人事件が起きる前にそれを解決してしまうものなのさ。灰色の脳細胞なんて、使わずに済むならそれが一番だよ」
覆水は穏やかに、そう言った。
「でもまあ、今回のは一つの石で二鳥を得たようなものだったね。彼女が先永美寿寿さんだってことに気付いたのは、声をかけた後だったから」
「それでまあ、よくああも言いくるめられましたね。最初、見ていて痛々しかったです」
女性は、先永美寿寿が覆水にした数々の仕打ちを思い出したのか、形のいい眉をひそめた。それでも、覆水はあっけらかんとしている。
「良いんだって。結果オーライさ。名探偵は、凡人の非道な仕打ちなんぞに負けはしないんだ」
「そういうものですか……」
女性は感心したように覆水を見つめ、また札束を数え始めた。