ペンギンズ・ハッピートーク~空想科学省心霊課創設の経緯~

 あれから何年経っただろう。結局あの日以来、私とエンデは街で遭うことがなくなったのだ。恐らく、エンデのフィールドワークの範囲が、別の街に移ったのだろう。私も彼女も、あれからそれぞれ、別の道を歩んできたのである。
 きぃっとドアの開く音が聞こえ、私は回想を終えた。振り向くと、そこにはいつも通り真面目な表情をした助手の女性と、いつもよりもくたびれた風の覆水再起が立っていた。
「お帰り。早かったんだな」
 私が声をかけると、再起はくたくたと、ソファに寝そべってしまった。
「もう、疲れましたよ……。まさか、警察の人間と鉢合わせになるとは……」
「警察と鉢合わせ?」
「先生は、警察が苦手でらっしゃいますから」
 助手の女性は困ったように微笑む。再起は最早喋る気力すらないらしく、ひたすら目を閉じて、自分の視界から現実を閉め出そうとしている。
「なんだ、警察にお株を奪われたのか?」
 私が呆れて聞くと、助手の女性が律儀に答えてくれた。
「正確に言えば、あれは警察ではありませんね。空想科学省、とか言いましたっけ」
「何、空想科学省」
「ええ。とは言え、国に捜査権限を与えられて捜査していますから、警察と似たようなものですね。ただ、扱う事件の種類が、違うようです。去年の夏辺り、ひっそりと開設された部署だったはずです」
「そうか……。もう、できていたのか……」
 空想科学省。超常現象や心霊現象を扱うという、警察に並ぶ捜査機関。もしかしたらあいつも……。
などと考えていた矢先、ソファの上から聞こえた再起の泣き言に、私は思わず、笑みを漏らした。

「もう、ペンギンのぬいぐるみは見たくありません……」
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