悪魔のお気に入り

 街外れにできたお化け屋敷は予想以上に混み合っていた。軽く目眩がして、思わず出店のテントの柱に縋り付いてしまう。
 人混みが苦手なわけではない。ただ、あまりにも人が多いと……小さな悪意が寄せ集まって、それらがまた小さな悪霊を呼び寄せるのを感じてしまい、精神的に疲れてしまうのだ。
 カソックの上から提げているクロスを握り締め、近くに漂っていた、悪霊にもならないような悪意の芽を祓う。少しスッキリして、再び歩き出す。
 このお化け屋敷には、何か非常に強い悪意を感じる。ぼくの鼻はよくきくのだ。悪霊か……ひょっとすると正真正銘の悪魔が、お化け屋敷という親しみやすい看板を隠れ蓑にして、何らかのおぞましい仕事に勤しもうとしているのに違いない。奇しくも今はハロウィンシーズン真っ盛り。ハロウィンと言えばホラー映画だが、お化け屋敷を訪れた人々が猟奇殺人犯に追いかけ回されるのは王道中の王道だ。
 悪霊も悪魔も、バチカン公認のエクソシストであるぼくが祓ってやる。
 ……とは言ったものの。普通に入り口から入場したとて、滞在できる時間は高が知れている。しっかりした調査などできない。かと言って、オーナーに調査させてくれなんて言える筈もない。そもそもオーナーが悪事に加担している可能性だってあるのだ。
 だから、どこかからこっそり入りたいのだけれど……。裏口はどこだろう。
 入場待機の行列から離れて建物のそばをウロウロしていたら、急にカソックの袖を掴まれた。
「神父様か! 凄い再現度だね」
 見ると、スタッフの腕章を付けた女性だ。
「え、いや、あの、これは再現とかじゃなくて」
「もう役に入り込んでるの? 仕事熱心で結構だね! さあ、こんなとこにいないで、迫真の演技を頼むよ!」
 弁解の暇もなく、ぼくは女性に引っ張られるまま、隠されていたスタッフ通用口に連れ込まれた。
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