絶対音感は風邪ひくとつらいよ

「それじゃあアキ、また三日後に」
 ユイと碧波と別れ、途中まで暁時と一緒の道を歩いていた晴歌は、暁時の家に通じる道でそう言いかけた。
「いやいや、風邪気味のハルを一人で帰すわけないだろ。なんか栄養あるもんとか風邪薬とか買ってアパートまで送るから」
「過保護な幼馴染だ……」
 ため息混じりに言い、晴歌は暁時を伴ってドラッグストアへ行った。二人でああだこうだと話しながら、カゴに物を放り込んでいく。
「喉には杏仁豆腐がいいって聞いたことがあるから買ってくか。ハルも好きだよな。あ、普通に風邪薬も……」
「いや、風邪薬はいいよ」
 暁時はきょとんと晴歌を見た。
「いいって……薬飲んだら早く治るぜ。そんな薬嫌いだったっけ」
「いや、薬嫌いなのはお前だろ。小学生の時に薬飲むのが嫌すぎて、飲んだふりして全部捨ててたっておばさんから聞いてる」
 暁時はくくくと笑った。
「そんな昔の話、お袋ももう覚えてないと思うぜ。……で、どうして風邪薬を買わないなんて言うんだ?」
「風邪薬を飲んで、耳の調子がおかしくなったことがあるんだ」
 晴歌は自身の耳を指差した。
「耳の調子が?」
「うん……キーが二つくらい下がって聴こえてしまって。後で調べたら、薬の副作用で、絶対音感を持ってるとなりやすいらしい」
 ふうん、と暁時は頷いて、手に持っていた風邪薬のシロップを棚に戻した。
「そうか、ハルは絶対音感あるんだっけ。俺はないから羨ましいけど、風邪のときに薬飲むの躊躇しなきゃならないのは面倒だな」
「アキだって俺と同じくらいから音楽やってるんだから、普通に音感あるだろ。絶対音感なんてなくたって問題ないし……別に、そんないいもんってわけでもないと思う」
「そんなもんか」
 暁時は、いっぱいになったカゴを持ってレジへ向かおうとした晴歌を呼び止めた。話しながら見ていた、スマートフォンの画面を晴歌に向けた。
「音感に作用する副作用が出ない薬もあるっぽいから、買ってこうぜ」
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