蛍の光を歌おう

 二次会は結局カラオケになった。『蛍光』に程近いチェーン店だ。用事があって参加できない者が帰って、梶宮と数人が参加した。いくら飲んでも顔色の変わらない梶宮を中心に各々好き勝手に歌い、楽しむ。晴歌は上手な上にどんな曲でも大抵は知っているので参加者からのリクエストを受け付けることになり、暁時はギターがないので、もっぱら手拍子でそれに加わった。
 二時間ほど経った頃、晴歌が曲を止めた。
「それじゃあそろそろ時間も時間なので、お開きにしよう。ということで、先生から一言、お願いします」
「あれ? 一次会の最後にもしゃべったじゃない」
「二次会の最後にも、お願いします」
「仕方ないねえ」
 梶宮はよっこらしょ、と掛け声をつけて立ち上がり、彼らの担任だった頃と変わらない穏やかな笑顔で言った。
「叶うまで追えば、それは夢じゃなくなる! そういうことだから、皆、必ず夢を追って、捕まえるんだよ」
「先生、それさっき俺が話したやつ」
 晴歌は笑い、暁時は「頑張ります!」と拳を突き上げた。
「それじゃあ恒例のあれで締めますか」
 梶宮が選曲タブレットを使い、最後の一曲を送信した。
『蛍の光』
「これ本当に恒例になったよね」
 桜がポツリと言い、晴歌は頷く。
「こういうの、いいと思うよ、俺は」
 彼らの卒業式では、感染症の流行により、時間短縮と歌唱の自粛が行われた。卒業式では定番となっている一人一人の呼名や校歌斉唱も、そしてもちろん『蛍の光』の斉唱も省略された、とても味気のない式だった。だから、年に一度の同窓会の閉会時にこれを歌おうと梶宮が言い出した時、誰も嫌がらなかった。あの時に歌えなかった分、練習さえできなかった分を、これから取り戻したいという気持ちが、根底にあったのだろう。
 ピアノの、しっとりとしたメロディが流れ始める。先ほどまでのにぎやかな雰囲気とは一変して、全員、真面目な顔になる。
 一年に一度の同窓会が、『蛍の光』と共に締めくくられていった。
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