まどろみの淵から意識が浮上した。陽介は、自分の掌に滑らかな絹糸が絡んでいるような感触を不思議に思う。

　胸板が湯たんぽを抱いたように温かいけれど、それにはない湿度と肌に吸い付くような滑らかさを伴っている。

腕の中を覗き込んで、陽介は瞠目した。一糸まとわぬ恋人——瀬名瑞月が胸板にひたりと顔をよせて眠っている。

「う……ぶっ」

込み上げる混乱を片手で抑え込んだ。

　たおやかな黒髪が、動揺した指に乱されて、甘い匂いが薫（くゆ）る。彼女の——昨日の夜に陽介を包んだ——甘い匂い。今さらになって、陽介は彼女と肌を重ねた夜を思い出す。

　あの後、事後処理を終えた2人はそのまま寝てしまったのだ。陽介はそっと、彼女の首筋に手を当てる。

「……ん」

　規則正しい鼓動と健やか寝息が伝わってきて、陽介は詰めた息を吐いた。瑞月は深い眠りに落ちているらしい。

　ふと、ある思い付きが陽介の頭をかすめた。瑞月はいまだ夢の中でにいる。陽介が離れても問題はなさそうだ。陽介は慎重に身体を離した。さいわいにも、瑞月は起きずに昏々と眠る。