丁寧に敷かれた布団の上で、花村陽介は気恥ずかしくなって姿勢を正した。

　部屋の中には経営者の意向なのか、季節に合わせた造花が飾り棚に置かれている。桜を主役としたそれは照明のせいなのか、天衣無縫の可愛らしさに妖しげなうす影をまとっている。

　といっても、陽介の思考は極端に狭くなっているので、部屋の装飾を楽しむ余裕などない。アイロンの効いていた浴衣はいまや緊張で染み出した汗を吸い込んでしっとりとしている。

　緊張で火照る体を包む暖気に、空調をつけなくてもよかったかなと後悔した。

　しかし、それでは、この場所で一夜を過ごす同行者の身体を冷やしてしまう。

　同行者である彼女は、併設されたバスルームにてシャワーを浴びている真っ最中だ。
　一糸まとわぬ姿で、今日一日の汚れやらを丁寧に洗い流していることだろう。さぁさぁと淀みなく流れる水音がやけに大きい。

　それに伴って、陽介の頭に浮かんでくるのは、まるで絹か白雪のように無垢な彼女の肌と、女性らしくまろい肢体のあれやこれや——

「～～～～～～～～～～～ッッ！！」

　そこまで想像して陽介は無言で呻いた。顔を両手で覆い隠し、頭に浮かんだ不埒な想像を物理的にも心象的にも振り払う。手が顔の熱で焼けた。

　虚像をかき消したとしても、あと少し経てば陽介は彼女のすべてを見るというのに。

『必ず私は、陽介に操をささげるから』

　いつかの彼女の誓いが、陽介の脳裏を過ぎる。いつかと言ってしまえるほどの、長い時間が流れていた。今日はその誓いが果たされる夜だ。

　すなわち、陽介が彼女——恋人である瀬名瑞月と初めて共にする夜であった。