friendship
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4限目の授業の終わり──すなわち昼休みの始め──、珍しいことに瑞月が花村の机を訪ねてきた。
「花村、すまないが、日直の仕事を手伝ってはくれまいか」
「え……?」
珍しい事態に陽介は目を瞬かせる。
といっても、瑞月が陽介に話しかけるのは、もはや珍しくない。
千枝や雪子と友達になってからというもの、瑞月はクラス内で彼女らと行動する機会が多くなった。無論、彼女らの仲介役となった陽介も含まれる。
クラスメイトは当初、突然他人と交流を持った瑞月を不思議そうな様子で遠巻きに眺めていた。なにせ、クラスの中で孤立を保っていた瑞月が他人と行動するようになったのだ。文化祭まで頑なに一匹狼だった、瑞月の心変わりが興味の的にならないはずがない。
しかし、人の噂も七十五日というように、今ではすっかりクラスの興味は失せたらしい。もともと、文化祭で活躍したメンバーの集まりだ。交流を持った理由に納得がいくのも早かったのだろう。
いまや陽介たちは4人のグループ(ときたま長瀬や一条も含まれる)で固まることが多くなっている。
つまり、瑞月が陽介と教室で話すのはいまやまったく珍しい事態ではなかった。ならばなぜ、陽介は驚いたのか。理由は、瑞月が頼みごとをしてきたからに他ならない。瑞月は人に、ほとんど頼み事をしないのだ。
陽介の困惑をくみ取ったのだろう。首を傾げた陽介に、瑞月が言葉を続ける。
「5時限目の日本史で、何やら大量に資料を持ってこなければならないんだ。私だけでは手が足りない。昼食ののち、手伝ってはくれないか」
「あぁ、そういうことネ……、いいぜ。クーッ、モテる男はつらいよな。モテるついでにチョコくんない?」
「ありがとう。だが、その頼み方は厚かましいからやめた方がいいと思う。モテると言っても、持つのは荷物だが……」
「それを言っちゃあイケマセンよ……瀬名さん」
瑞月だって友達だとはいえ、女子である。しかも、去年末にはクリスマスプレゼントを交換もしているほど親しい仲だ。男として、陽介は一瞬、義理チョコでも貰えるのではないかと期待した。しかし、的外れだったようだ。
やはり瑞月はこうした浮ついたイベントとは縁もゆかりもないようである。さすがにブレない。クリスマスのプレゼントは、聖夜ゆえの奇跡だったのだろう。
◇◇◇
昼に用意した惣菜パンを腹に入れ、陽介は社会科準備室まで歩いていく。瑞月はすでに昼食を食べ終わっており、先に待っているという。彼女を待たせてはいけないと、自然と陽介の足は速まった。
目的の教室は実習棟だ。人の出入りが少ないため、バレンタインで浮き浮き立った教室棟の喧騒から、陽介は切り離されていく。
「ええっと、たしかここ……だよな……」
指定された教室にたどり着いた陽介は、ギィィッと年季で軋むドアを開く。埃っぽい教室のなか、たしかに瑞月はそこにいた。備え付けの机に向いていた、紺碧の瞳が陽介に向いてゆるく細められる。
「来てくれたのか。早いな」
「おう。こういうのはサッサと済ませた方がいいだろ?」
気安く、陽介は笑いかける。瑞月が向き合っていた机の上には、大きな地図、様々な大きさの地図と大きなファイルが入った段ボールが乗っている。おそらく、次の授業で使うものを瑞月があらかじめ出しておいてくれたのだろう。
手伝いを頼んだ瑞月が申し訳なさを感じないように、陽介はおどけて力こぶを作る真似をした。
「よーし、んじゃ、これを運べばいーんだな。もっと量あるかと思ったけど、これなら俺らで運びゃ一発で終わるな」
「そうしてもらいたいところだが、すこし時間を貰えるだろうか」
えっと陽介が疑問を呈する暇もなく、瑞月は陽介へと距離を詰めた。まっすぐに陽介へと身体を向けて、彼女は突き進んでくる。
人一人のスペースを残したところで、瑞月は止まった。そうして、陽介の眼前に右腕を突き出す。彼女が掴んでいたものに、陽介は口をあんぐりと開いた。
瑞月が持っていたもの──それはショッパーだ。上品な濃藍の地に、レモンクリームのリボンの柄が印刷された、確実に誰かに送るための手提げつきギフトボックス。混乱に言葉を失った陽介に構わず、瑞月は告げる。
「『友チョコ』というヤツだ。今といい、きみにはいつもお世話になっているからな。渡しておく」
「花村、すまないが、日直の仕事を手伝ってはくれまいか」
「え……?」
珍しい事態に陽介は目を瞬かせる。
といっても、瑞月が陽介に話しかけるのは、もはや珍しくない。
千枝や雪子と友達になってからというもの、瑞月はクラス内で彼女らと行動する機会が多くなった。無論、彼女らの仲介役となった陽介も含まれる。
クラスメイトは当初、突然他人と交流を持った瑞月を不思議そうな様子で遠巻きに眺めていた。なにせ、クラスの中で孤立を保っていた瑞月が他人と行動するようになったのだ。文化祭まで頑なに一匹狼だった、瑞月の心変わりが興味の的にならないはずがない。
しかし、人の噂も七十五日というように、今ではすっかりクラスの興味は失せたらしい。もともと、文化祭で活躍したメンバーの集まりだ。交流を持った理由に納得がいくのも早かったのだろう。
いまや陽介たちは4人のグループ(ときたま長瀬や一条も含まれる)で固まることが多くなっている。
つまり、瑞月が陽介と教室で話すのはいまやまったく珍しい事態ではなかった。ならばなぜ、陽介は驚いたのか。理由は、瑞月が頼みごとをしてきたからに他ならない。瑞月は人に、ほとんど頼み事をしないのだ。
陽介の困惑をくみ取ったのだろう。首を傾げた陽介に、瑞月が言葉を続ける。
「5時限目の日本史で、何やら大量に資料を持ってこなければならないんだ。私だけでは手が足りない。昼食ののち、手伝ってはくれないか」
「あぁ、そういうことネ……、いいぜ。クーッ、モテる男はつらいよな。モテるついでにチョコくんない?」
「ありがとう。だが、その頼み方は厚かましいからやめた方がいいと思う。モテると言っても、持つのは荷物だが……」
「それを言っちゃあイケマセンよ……瀬名さん」
瑞月だって友達だとはいえ、女子である。しかも、去年末にはクリスマスプレゼントを交換もしているほど親しい仲だ。男として、陽介は一瞬、義理チョコでも貰えるのではないかと期待した。しかし、的外れだったようだ。
やはり瑞月はこうした浮ついたイベントとは縁もゆかりもないようである。さすがにブレない。クリスマスのプレゼントは、聖夜ゆえの奇跡だったのだろう。
◇◇◇
昼に用意した惣菜パンを腹に入れ、陽介は社会科準備室まで歩いていく。瑞月はすでに昼食を食べ終わっており、先に待っているという。彼女を待たせてはいけないと、自然と陽介の足は速まった。
目的の教室は実習棟だ。人の出入りが少ないため、バレンタインで浮き浮き立った教室棟の喧騒から、陽介は切り離されていく。
「ええっと、たしかここ……だよな……」
指定された教室にたどり着いた陽介は、ギィィッと年季で軋むドアを開く。埃っぽい教室のなか、たしかに瑞月はそこにいた。備え付けの机に向いていた、紺碧の瞳が陽介に向いてゆるく細められる。
「来てくれたのか。早いな」
「おう。こういうのはサッサと済ませた方がいいだろ?」
気安く、陽介は笑いかける。瑞月が向き合っていた机の上には、大きな地図、様々な大きさの地図と大きなファイルが入った段ボールが乗っている。おそらく、次の授業で使うものを瑞月があらかじめ出しておいてくれたのだろう。
手伝いを頼んだ瑞月が申し訳なさを感じないように、陽介はおどけて力こぶを作る真似をした。
「よーし、んじゃ、これを運べばいーんだな。もっと量あるかと思ったけど、これなら俺らで運びゃ一発で終わるな」
「そうしてもらいたいところだが、すこし時間を貰えるだろうか」
えっと陽介が疑問を呈する暇もなく、瑞月は陽介へと距離を詰めた。まっすぐに陽介へと身体を向けて、彼女は突き進んでくる。
人一人のスペースを残したところで、瑞月は止まった。そうして、陽介の眼前に右腕を突き出す。彼女が掴んでいたものに、陽介は口をあんぐりと開いた。
瑞月が持っていたもの──それはショッパーだ。上品な濃藍の地に、レモンクリームのリボンの柄が印刷された、確実に誰かに送るための手提げつきギフトボックス。混乱に言葉を失った陽介に構わず、瑞月は告げる。
「『友チョコ』というヤツだ。今といい、きみにはいつもお世話になっているからな。渡しておく」