暴露
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1月16日 日曜日
分厚い曇り空のもとを、陽介は早足で歩く。
早朝バイト帰り、商店街に通じるバス道路を歩いている道すがら、陽介は見覚えのある背中を発見した。身につけた衣服こそ異なれど、凛と背筋を伸ばした立ち姿は、陽介の知る友人とよく似ている。
その人に向かって「おーい」と陽介は呼びかけた。くるりと目的の人物が振り返って、見知った碧 の瞳が陽介を写し出す。相手は陽介が思ったとおりの人物だ。
「お、やっぱ瀬名だー」
「おや花村、奇遇だな」
友人の瀬名瑞月だ。彼女は四目内堂書店 ──商店街に軒を連ねる一件の本屋──の前に掲示されたポスターを眺めていた。
陽介が近づくと、瑞月は爪先ごと身体を陽介へと向ける。回転する身体に合わせて、はらりと黒く長い髪が靡いた。珍しいものに向ける視線を、陽介は瑞月のまっすぐに伸びた黒髪に注ぐ。
「あの沖奈んときのじゃねーんだな。今日はフツーに女の子っぽい」
「ああ、いつもあの服を着ているわけではないさ。アレは沖奈専用だからな」
「へぇ。今日は髪まで下ろしてんのか。珍しっつか、初めて見たわ」
「服に合わせて、久しぶりに、な」
少し落ち着かないがなと、瑞月は髪をくしくしといじる。ふーんと、陽介は瑞月の服装に目を向けた。
柔らかなケーブルニットのハイネックに、網目がなめらかなワインレッドのストールカーディガンを羽織っている。ボトムスは上品なブラックグリーンのフレアスカートだ。
普段キッチリとまとめられている髪は降ろされていて、まるで別人だ。さらりと柔らかく揺れる長い髪に、女性らしい魅力が強く協調されている。男顔負けの凛々しさを持つ、普段とのギャップが激しい。
「一瞬、誰か分からんかったわ。そんな大人っぽい服着て、誰かとお出かけ?」
「あいにくと今日は1人だ。花村は……バイトから帰ってきたのか?」
「まーー、今日もさんざこき使われましたわ。あーー、肩がおもーーー」
「お疲れさま。品出しの仕事はすさまじいものな……」
瑞月は苦笑する。年始の臨時バイトを思い出しているのだろう。初めてながら、彼女は中々の働きぶりだった。何ならいい加減なバイトたちよりも働いていたかもしれない。そこまで思い出して、陽介は記憶を振り払う。せっかく休日に友人の瑞月 と会えたのだ。どうせなら、楽しい話がしたい。
「で、お前は本屋の前にいたけど、なんか買ったの?」
「ああ、文芸本とそれから……」
小さなショルダーバッグから、瑞月は文庫本を取り出した。
武器を構えた登場人物たちが迫力のあるポーズを取っている表紙と、一般文芸よりキャッチ―なカバーは、ライトノベルと呼ばれるものだ。たしか、今話題となっているアニメの原作である。ちなみに陽介もネットを通じて視聴している。瑞月は声を弾ませながら、ラノベの背表紙を撫でた。
「新刊を予約していたんだ。持ち帰って読むのが楽しみだよ」
「そりゃ良かったな。……にしても、マンガやアニメから入ってなーんでラノベにツボッたんだか……」
「花村が詳しくない分野だというから、気になったんだ。花村が映画と音楽とアニメ、私が書籍全般、カンペキだろう?」
「何がだよ」
ふふっと、二人して笑いあう。沖奈に出かけたあの日以来、瑞月はすっかりサブカルとエンタメが気に入ったらしかった。
はじめは陽介から漫画や映画を借りていくことが多かったが、いまや自分から話題を取り込むまでに成長を遂げた。ついこの前など、陽介の映画と瑞月のオススメマンガで貸し合いをしたほどだ。
あのマンガ面白かったなーなどと思っていると、瑞月が閃いたとばかりに両手を合わせる。
「そういえば、花村。この前借りた映画もとても面白かったとも」
「マジ!? 感想聞かしてッ」
「よしきた。そうこなくってはな」
話が長くなりそうなので、2人は歩幅を合わせて歩き出す。行く先は、問わずとも決まっていた。
分厚い曇り空のもとを、陽介は早足で歩く。
早朝バイト帰り、商店街に通じるバス道路を歩いている道すがら、陽介は見覚えのある背中を発見した。身につけた衣服こそ異なれど、凛と背筋を伸ばした立ち姿は、陽介の知る友人とよく似ている。
その人に向かって「おーい」と陽介は呼びかけた。くるりと目的の人物が振り返って、見知った
「お、やっぱ瀬名だー」
「おや花村、奇遇だな」
友人の瀬名瑞月だ。彼女は
陽介が近づくと、瑞月は爪先ごと身体を陽介へと向ける。回転する身体に合わせて、はらりと黒く長い髪が靡いた。珍しいものに向ける視線を、陽介は瑞月のまっすぐに伸びた黒髪に注ぐ。
「あの沖奈んときのじゃねーんだな。今日はフツーに女の子っぽい」
「ああ、いつもあの服を着ているわけではないさ。アレは沖奈専用だからな」
「へぇ。今日は髪まで下ろしてんのか。珍しっつか、初めて見たわ」
「服に合わせて、久しぶりに、な」
少し落ち着かないがなと、瑞月は髪をくしくしといじる。ふーんと、陽介は瑞月の服装に目を向けた。
柔らかなケーブルニットのハイネックに、網目がなめらかなワインレッドのストールカーディガンを羽織っている。ボトムスは上品なブラックグリーンのフレアスカートだ。
普段キッチリとまとめられている髪は降ろされていて、まるで別人だ。さらりと柔らかく揺れる長い髪に、女性らしい魅力が強く協調されている。男顔負けの凛々しさを持つ、普段とのギャップが激しい。
「一瞬、誰か分からんかったわ。そんな大人っぽい服着て、誰かとお出かけ?」
「あいにくと今日は1人だ。花村は……バイトから帰ってきたのか?」
「まーー、今日もさんざこき使われましたわ。あーー、肩がおもーーー」
「お疲れさま。品出しの仕事はすさまじいものな……」
瑞月は苦笑する。年始の臨時バイトを思い出しているのだろう。初めてながら、彼女は中々の働きぶりだった。何ならいい加減なバイトたちよりも働いていたかもしれない。そこまで思い出して、陽介は記憶を振り払う。せっかく休日に友人の瑞月 と会えたのだ。どうせなら、楽しい話がしたい。
「で、お前は本屋の前にいたけど、なんか買ったの?」
「ああ、文芸本とそれから……」
小さなショルダーバッグから、瑞月は文庫本を取り出した。
武器を構えた登場人物たちが迫力のあるポーズを取っている表紙と、一般文芸よりキャッチ―なカバーは、ライトノベルと呼ばれるものだ。たしか、今話題となっているアニメの原作である。ちなみに陽介もネットを通じて視聴している。瑞月は声を弾ませながら、ラノベの背表紙を撫でた。
「新刊を予約していたんだ。持ち帰って読むのが楽しみだよ」
「そりゃ良かったな。……にしても、マンガやアニメから入ってなーんでラノベにツボッたんだか……」
「花村が詳しくない分野だというから、気になったんだ。花村が映画と音楽とアニメ、私が書籍全般、カンペキだろう?」
「何がだよ」
ふふっと、二人して笑いあう。沖奈に出かけたあの日以来、瑞月はすっかりサブカルとエンタメが気に入ったらしかった。
はじめは陽介から漫画や映画を借りていくことが多かったが、いまや自分から話題を取り込むまでに成長を遂げた。ついこの前など、陽介の映画と瑞月のオススメマンガで貸し合いをしたほどだ。
あのマンガ面白かったなーなどと思っていると、瑞月が閃いたとばかりに両手を合わせる。
「そういえば、花村。この前借りた映画もとても面白かったとも」
「マジ!? 感想聞かしてッ」
「よしきた。そうこなくってはな」
話が長くなりそうなので、2人は歩幅を合わせて歩き出す。行く先は、問わずとも決まっていた。