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瀬名家では、正月、年末年始でなまった身体をほぐすために『羽根突き』で遊ぶらしい。勝敗ではなく、ラリーの長さを重視。たとえ落としたとしても墨で落書きするようなペナルティはない、ゆるい遊びだ。
「まぁ、バトミントンのようなものよな。私と佳菜で少しだけやってみるから、花村はそれを見てイメージトレーニングしてみてくれ」
「おう、分かった」
「よし。では、佳菜。早速始めようか」
「はーい!」
陽介から適度な距離を取り、瀬名の姉妹は対面で向き合う。羽飾りのついた黒い玉──名前もそのまま『羽根』というらしい──を放って、瑞月は羽子板に打ち付けた。
陽介はというと、佳菜から受け取った羽子板を握って持ち方を確認している。
(羽子板は腕と水平になるように持ってっつてたっけ)
コォンと小気味良い音がして、羽根が高く飛び上がる。羽根を放られた佳菜は、羽子板の真ん中で羽根を受け止めて、コォンと安定した起動で打ち返した。羽根はそのまま、瑞月のもとへ打ち返される。
打ち方のコツを観察するために陽介はじっと、瑞月に注目する。陽介の意図に気がついたのか、瑞月は羽子板を構えながら口を開く。
「羽根の真下に滑り込ませるのが、返球のコツだ。腕にはそこまで力をこめなくていい」
白魚に似たしなやかな腕が伸びる。コォンと澄んだ音を立てて、羽根は再び宙に飛んだ。
「板に玉を当てようと意識すれば、自然と返せる。羽根は軽くて飛びやすいからっ、な」
再びコォンと羽根が飛ぶ。遊びなれているのか、2人の応酬は軽やかに続く。陽介は正直、ただ見ているだけだが──それでも面白かった。もともと、スポーツ観戦に理解がある陽介だが──羽根突きで遊ぶ瀬名姉妹があまりに伸びやかだったからだ。
「そいやー!」
「といやー」
消極的なわけでもなく、熱血なわけでもなく、
ただイキイキと、目の前の相手との遊びを楽しんでいる。
コォン コォンと
羽根は高く 高く 軽やかに。
◇◇◇
長いラリーが続き、佳菜が勢いあまって放った羽根を瑞月がとり損ねた。だが、素人目の陽介でも十分称賛できる長さだ。パチパチと、陽介は思わず手を叩く。
「ヒュー! すっげーじゃん、2人とも! 息ぴったりの華麗なストライクでさすが姉妹って感じ!」
「へへ、いえーい!」
「……毎年やっているからな。慣れだ慣れ」
幼い佳菜はニコニコと素直に喜んでVサインをつくる。対する瑞月は、落ち着きがなさそうに視線をさ迷わせる。
「ほぉー、さては瀬名、照れてるな?」
「て、照れてない」
「照れてるヤツって、だいたいそーいうコトいうよな」
「いやだから照れてな……な、なんだそのあったかい目は!」
「おねえちゃん、照れてるのー?」
照れる瑞月という、至極珍しいものを眺めて陽介はニヤニヤと口許を弾ませる。瑞月はストレートなお礼や誉め言葉に弱く、必ずつれない態度を取る。けれど、かすかに頬が赤くなるから、バレバレだ。
ニヤつく陽介に向かって、ズカズカと瑞月が向かってくる。そうして、陽介の眼前に瑞月はビシッと指を突きつけた。勢いに気圧され、陽介の身体が退く。
「ういぃっ!?」
「君だってこれからやるんだからな! ほら、突っ立ってないで実践だ実践!」
そのまま腕を掴まれ、ズルズルと強引に連れていかれる。いつの間にか、陽介は瀬名姉妹の羽子板合戦に巻き込まれた。
初めのうちは落としてばかりだったけど、だんだんとコツが掴めてきて、3人で長くラリーを楽しめるようになった。
「花村ー。そちらは任せたー!」
「おう! 任しときな!」
「がんばれー!!」
歓声受けながら、落ちてくる羽根の元へ急ぐ。コォンと軽やかな音とともに羽根が跳躍する。準備体操のおかげか、身体が軽い。
「よしっ、ナイスだ花村! ──ってい」
「わはー! おねえちゃんすごいー!」
「すげぇ、こりゃまだまだイケるぞ!」
瑞月が、佳菜が、天高くうち上がった羽根を仰いで笑う。つられて陽介も笑う。
心は軽やかなのに、不安はまったくなかった。
自分はたしかにここにいて、心から羽根つきを楽しんでいる。
いつの間にか、家に一人でいたときの心細さも寂しさもなくなって、
コォンコォンと、にぎやかな応酬に夢中になっていた。
「まぁ、バトミントンのようなものよな。私と佳菜で少しだけやってみるから、花村はそれを見てイメージトレーニングしてみてくれ」
「おう、分かった」
「よし。では、佳菜。早速始めようか」
「はーい!」
陽介から適度な距離を取り、瀬名の姉妹は対面で向き合う。羽飾りのついた黒い玉──名前もそのまま『羽根』というらしい──を放って、瑞月は羽子板に打ち付けた。
陽介はというと、佳菜から受け取った羽子板を握って持ち方を確認している。
(羽子板は腕と水平になるように持ってっつてたっけ)
コォンと小気味良い音がして、羽根が高く飛び上がる。羽根を放られた佳菜は、羽子板の真ん中で羽根を受け止めて、コォンと安定した起動で打ち返した。羽根はそのまま、瑞月のもとへ打ち返される。
打ち方のコツを観察するために陽介はじっと、瑞月に注目する。陽介の意図に気がついたのか、瑞月は羽子板を構えながら口を開く。
「羽根の真下に滑り込ませるのが、返球のコツだ。腕にはそこまで力をこめなくていい」
白魚に似たしなやかな腕が伸びる。コォンと澄んだ音を立てて、羽根は再び宙に飛んだ。
「板に玉を当てようと意識すれば、自然と返せる。羽根は軽くて飛びやすいからっ、な」
再びコォンと羽根が飛ぶ。遊びなれているのか、2人の応酬は軽やかに続く。陽介は正直、ただ見ているだけだが──それでも面白かった。もともと、スポーツ観戦に理解がある陽介だが──羽根突きで遊ぶ瀬名姉妹があまりに伸びやかだったからだ。
「そいやー!」
「といやー」
消極的なわけでもなく、熱血なわけでもなく、
ただイキイキと、目の前の相手との遊びを楽しんでいる。
コォン コォンと
羽根は高く 高く 軽やかに。
◇◇◇
長いラリーが続き、佳菜が勢いあまって放った羽根を瑞月がとり損ねた。だが、素人目の陽介でも十分称賛できる長さだ。パチパチと、陽介は思わず手を叩く。
「ヒュー! すっげーじゃん、2人とも! 息ぴったりの華麗なストライクでさすが姉妹って感じ!」
「へへ、いえーい!」
「……毎年やっているからな。慣れだ慣れ」
幼い佳菜はニコニコと素直に喜んでVサインをつくる。対する瑞月は、落ち着きがなさそうに視線をさ迷わせる。
「ほぉー、さては瀬名、照れてるな?」
「て、照れてない」
「照れてるヤツって、だいたいそーいうコトいうよな」
「いやだから照れてな……な、なんだそのあったかい目は!」
「おねえちゃん、照れてるのー?」
照れる瑞月という、至極珍しいものを眺めて陽介はニヤニヤと口許を弾ませる。瑞月はストレートなお礼や誉め言葉に弱く、必ずつれない態度を取る。けれど、かすかに頬が赤くなるから、バレバレだ。
ニヤつく陽介に向かって、ズカズカと瑞月が向かってくる。そうして、陽介の眼前に瑞月はビシッと指を突きつけた。勢いに気圧され、陽介の身体が退く。
「ういぃっ!?」
「君だってこれからやるんだからな! ほら、突っ立ってないで実践だ実践!」
そのまま腕を掴まれ、ズルズルと強引に連れていかれる。いつの間にか、陽介は瀬名姉妹の羽子板合戦に巻き込まれた。
初めのうちは落としてばかりだったけど、だんだんとコツが掴めてきて、3人で長くラリーを楽しめるようになった。
「花村ー。そちらは任せたー!」
「おう! 任しときな!」
「がんばれー!!」
歓声受けながら、落ちてくる羽根の元へ急ぐ。コォンと軽やかな音とともに羽根が跳躍する。準備体操のおかげか、身体が軽い。
「よしっ、ナイスだ花村! ──ってい」
「わはー! おねえちゃんすごいー!」
「すげぇ、こりゃまだまだイケるぞ!」
瑞月が、佳菜が、天高くうち上がった羽根を仰いで笑う。つられて陽介も笑う。
心は軽やかなのに、不安はまったくなかった。
自分はたしかにここにいて、心から羽根つきを楽しんでいる。
いつの間にか、家に一人でいたときの心細さも寂しさもなくなって、
コォンコォンと、にぎやかな応酬に夢中になっていた。