協力要請
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それにしたって一匹狼な瑞月ならすげなく断りそうなものだが、どうして引き受けたのだろうか。もしや、と天城から聞いた話を陽介は思い出す。
「それって、瀬名さんのお袋さんの関係だから? その、料理研究家だっていう」
「………よく知っているな。担任も農家の方のこぼれ話で知ったというのに」
「あっ、やっ、グーゼン天城から聞いたんだよ……」
「天城さんか……なるほど、彼女は『天城屋旅館』のお嬢さんだったな。母も仕事で良くしてもらっている。……っと、話が逸れたな。そうだ。母が地元の農産物に詳しい人間であるから、私に声がかかったんだ」
瑞月は陽介を見つめる。その瞳には静かな──だが意思の強さが現れた鋭い光が宿っている。
「断る理由もなかったのでね。母の名前を出されては仕方ない。任された以上はやるとも」
瀬名は断言する。話しているうちに、陽介は瑞月に抱いていたイメージが変わっていく。瑞月は、陽介の質問に対して正直に答えてくれていた。容姿の冷たさが先行する彼女だが、話してみると受け答えは真摯だ。
「なんか……口調は堅いけど、思ってたより瀬名さんって話しやすいかも」
「花村くん、先ほどから君の中で、私はどんなイメージなんだ?」
「もっと、とっつきにくいイメージ。クラスにいっつもいねーし、すぐどっか行くだろ」
「ふむ……、とっつきにくいか」
陽介の言葉に、瑞月は額を指先で押さえる。何かに悩んで数秒後、口を開く。
「……確かに、クラスメイトとは目的がない限り話さないからな。1人で過ごすのが好きなんだ」
こともなげに、瑞月は応えた。陽介とは違って、一人が好きな人種らしい。もう少し話を広げようと、陽介は質問を投げてみる。
「普段、1人で昼休みとかどっか行ってるだろ。何してんの?」
「空き教室か屋上にて昼寝をしているが」
「昼寝!? そんなきちっとした格好しているのに」
「寝相は静かな方だと思う。真昼の日差しの中、熱ければ木陰の下、雨音を聞きながら、眠るのは気持ちがいいのだが……」
陽介はさらに衝撃を受けた。目の前の凛とした少女が、自堕落に教室で眠っている様を想像する。凛とした外見とは裏腹な、怠惰な内面のギャップに陽介はつい笑ってしまった。
「……ようやく緊張が解けてきたな。どうだ、とっつきやすくなっただろうか。私も人並みの趣味はあるから、怖いばかりの人間ではないだろう」
氷のように固まっていた表情がほどけて、人間らしい表情が初めて露わになった。笑顔とまでは言わないが、相手に好感を抱かせるような穏やかな表情。
「瀬名さんも、表情変わるんだな。いっつも無表情ってか、クチビル真一文字に結んだ表情しか知らなかったから、なんかすげー新鮮」
「人間だからね。話せば表情くらい動く」
瑞月は無理やり手のひらで口角を押し上げた。柔らかそうな頬が歪むが、唇の曲がり方がぎこちない。本人は笑おうとしているのに、表情が全く反応しないギャップがおかしくて、陽介は破顔する。
「いや、変わってねーし。作り笑顔ヘタかっ! って……あっ」
「うん。だいぶ喋り方が砕けてきたな。そちらの方が私も話しやすい」
思わずノリで突っ込んでしまった口元を陽介は抑える。しかし、瑞月は別段気を悪くした様子はない。むしろ、素を見せた陽介を肯定するように頷く。
「え、あ、お、怒んねーの? 瀬名さん、こういうノリとか嫌がりそうだけど」
「何を怒る必要がある? 自転車の件は、怒る必要があったから怒っただけだ。ああでも言わないと、君がまた危険な運転をすると判断した。君の喋り方についても、不快とは思わない。むしろ話しやすくなって私としては気が楽だ」
瑞月は首を傾げた。屋上で初めて会ったときよりも、感情を示す動作が多くなっていた。瑞月は表情が変わりにくいが、それを補って動作でコミュニケーションを取ろうとしている。つまり、瑞月は陽介と対話する意思は持っているのだ。
「つまり、瀬名さんは俺と話したい……。シティーボーイな俺の魅力に惹かれちゃったッ!?」
「シティーボーイの魅力うんぬんは脇に置いておくとして、協力する相手に身を固くされては困る。文化祭の手伝いとして誘ったのは私だ。スムーズに会話できるように努める」
「あぁ、サイですか……」
本当に脇に置くジェスチャーまで込まれて、舞い上がりかけた陽介の心までもが掠め取られた。なるほど、瑞月が陽介と雑談を続けていた理由は、陽介の緊張を解きほぐすため──お互いのコミュニケーションを円滑にするためだったのだ。
瑞月は、陽介に協力者以上の関心を抱いていない。
「それって、瀬名さんのお袋さんの関係だから? その、料理研究家だっていう」
「………よく知っているな。担任も農家の方のこぼれ話で知ったというのに」
「あっ、やっ、グーゼン天城から聞いたんだよ……」
「天城さんか……なるほど、彼女は『天城屋旅館』のお嬢さんだったな。母も仕事で良くしてもらっている。……っと、話が逸れたな。そうだ。母が地元の農産物に詳しい人間であるから、私に声がかかったんだ」
瑞月は陽介を見つめる。その瞳には静かな──だが意思の強さが現れた鋭い光が宿っている。
「断る理由もなかったのでね。母の名前を出されては仕方ない。任された以上はやるとも」
瀬名は断言する。話しているうちに、陽介は瑞月に抱いていたイメージが変わっていく。瑞月は、陽介の質問に対して正直に答えてくれていた。容姿の冷たさが先行する彼女だが、話してみると受け答えは真摯だ。
「なんか……口調は堅いけど、思ってたより瀬名さんって話しやすいかも」
「花村くん、先ほどから君の中で、私はどんなイメージなんだ?」
「もっと、とっつきにくいイメージ。クラスにいっつもいねーし、すぐどっか行くだろ」
「ふむ……、とっつきにくいか」
陽介の言葉に、瑞月は額を指先で押さえる。何かに悩んで数秒後、口を開く。
「……確かに、クラスメイトとは目的がない限り話さないからな。1人で過ごすのが好きなんだ」
こともなげに、瑞月は応えた。陽介とは違って、一人が好きな人種らしい。もう少し話を広げようと、陽介は質問を投げてみる。
「普段、1人で昼休みとかどっか行ってるだろ。何してんの?」
「空き教室か屋上にて昼寝をしているが」
「昼寝!? そんなきちっとした格好しているのに」
「寝相は静かな方だと思う。真昼の日差しの中、熱ければ木陰の下、雨音を聞きながら、眠るのは気持ちがいいのだが……」
陽介はさらに衝撃を受けた。目の前の凛とした少女が、自堕落に教室で眠っている様を想像する。凛とした外見とは裏腹な、怠惰な内面のギャップに陽介はつい笑ってしまった。
「……ようやく緊張が解けてきたな。どうだ、とっつきやすくなっただろうか。私も人並みの趣味はあるから、怖いばかりの人間ではないだろう」
氷のように固まっていた表情がほどけて、人間らしい表情が初めて露わになった。笑顔とまでは言わないが、相手に好感を抱かせるような穏やかな表情。
「瀬名さんも、表情変わるんだな。いっつも無表情ってか、クチビル真一文字に結んだ表情しか知らなかったから、なんかすげー新鮮」
「人間だからね。話せば表情くらい動く」
瑞月は無理やり手のひらで口角を押し上げた。柔らかそうな頬が歪むが、唇の曲がり方がぎこちない。本人は笑おうとしているのに、表情が全く反応しないギャップがおかしくて、陽介は破顔する。
「いや、変わってねーし。作り笑顔ヘタかっ! って……あっ」
「うん。だいぶ喋り方が砕けてきたな。そちらの方が私も話しやすい」
思わずノリで突っ込んでしまった口元を陽介は抑える。しかし、瑞月は別段気を悪くした様子はない。むしろ、素を見せた陽介を肯定するように頷く。
「え、あ、お、怒んねーの? 瀬名さん、こういうノリとか嫌がりそうだけど」
「何を怒る必要がある? 自転車の件は、怒る必要があったから怒っただけだ。ああでも言わないと、君がまた危険な運転をすると判断した。君の喋り方についても、不快とは思わない。むしろ話しやすくなって私としては気が楽だ」
瑞月は首を傾げた。屋上で初めて会ったときよりも、感情を示す動作が多くなっていた。瑞月は表情が変わりにくいが、それを補って動作でコミュニケーションを取ろうとしている。つまり、瑞月は陽介と対話する意思は持っているのだ。
「つまり、瀬名さんは俺と話したい……。シティーボーイな俺の魅力に惹かれちゃったッ!?」
「シティーボーイの魅力うんぬんは脇に置いておくとして、協力する相手に身を固くされては困る。文化祭の手伝いとして誘ったのは私だ。スムーズに会話できるように努める」
「あぁ、サイですか……」
本当に脇に置くジェスチャーまで込まれて、舞い上がりかけた陽介の心までもが掠め取られた。なるほど、瑞月が陽介と雑談を続けていた理由は、陽介の緊張を解きほぐすため──お互いのコミュニケーションを円滑にするためだったのだ。
瑞月は、陽介に協力者以上の関心を抱いていない。