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1月6日 木曜日
2011年──きたる新年、卯年。晴れやかな年末年始とは名ばかりに、陽介は自宅のこたつに突っ伏していた。だらだらとミカンを剥きながら、リモコンを繰ってテレビのチャンネルを変えてみる。
「なんもやってねぇな……」
退屈ぎみに、陽介はひとりごちる。年末年始のお笑い特番、駅伝──陽介にとって目ぼしい番組はすべて終わってしまって、日常の堅苦しいトーク番組が戻ってきていた。ものものしい眼鏡をかけたゲストたちが大げさな様子で世論について騒ぎ立てている。
ハレとケ──日常と非日常の狭間にある、なんとも言えないタルんだ時間。年末年始の晴れやかな気分が、とりとめのない日常に戻る時間の流れを拒むような、心細いような、心の置き場がよく分からなくなる複雑な時間。
(といっても、何かしようって気にはなれないんだよなぁ……)
間の悪いことに、話ができる両親は仕事に出ていて不在だ。家にはひとり、陽介だけが取り残されている。部屋にこもっていても寂しいからと、こたつのあるリビングに来てみたけれど──
「雪、スゲー積もってんなぁ……」
──ガラス窓から見える、無機質な冷たい白に目がいくばかりだ。雪は止んでいるけれど、それでも寒いなか出歩く気にはなれず、陽介は家にこもっていた。
Pi Pi Pi Pi Pi Pi!!
「ウオッ!? なんだ? バイト先かぁ……?」
静かな時間は、けたたましいアラームに打ち破られる。陽介は慌てて騒がしく震えるスマホを取り上げた。通話相手を確認し、陽介は驚いて眉を上げる。電話をよこしたのは──友人の瀬名瑞月だ。陽介はすばやく画面をタップする。
「もしも──」
『陽介おにいちゃん! あけましておめでとう!』
幼い声に気だるさが打ち破られる。遊びざかりの子犬みたいに明るい声だ。それだけで、電話先の相手が満面の笑みで笑っていると知れた。
「え……、佳菜 ちゃん?」
『うん! 陽介おにいちゃん だいせいかい!』
佳菜だよ! と、無邪気な彼女はニコニコと答える。続いて、『かなー』と聞きなれた親友の声が佳菜を呼んだ。ただし、普段耳にするような凛と冷たい響きは薄れて、包み込むような柔らかさを伴っている。
『陽介おにいちゃんに挨拶はできたか?』
『うん! だいせいこう。すっごくすっごく おどろいてたよ!』
『ふふっ、それは良かったなぁ。では佳菜、私と交代してくれないか』
佳菜は元気よく返事をすると「おねえちゃんと かわるね!」と陽介に告げる。しばらく間が空いて、『もしもし、私だ』と短い応答があった。先程の柔らかさは消え、いつも耳にする清水のような声。陽介はにまりと、ある企みを実行する。
「もしもーし。聞こえてるぜ、『瑞月おねえちゃん』」
『喧嘩なら買うが? 私を『おねえちゃん』と呼んでいいのは佳菜だけだ』
「ごめんごめん。普段おサムライみたいにカッチコチなお前が、ちゃんとお姉ちゃんやってんのが面白かったんだよ。ビフォーアフター的な?」
『ほう? では、普段にぎやかしに徹しているきみが、年始のアルバイトで目まぐるしく働いて言葉もなくデロデロに椅子へとつっぷしていた様子は中々に見物であったな。『陽介おにいちゃん』?』
「ちょ、ヤメロヤメロ! お前のオニーチャン呼び背筋ムズムズするわッ。あとハズイこと思い出させんなし!」
『自業自得ではないか』
話している相手はいないというのに、陽介は身ぶり手振りで瑞月の言動にリアクションを示す。瑞月の呆れた──けれど仕方がないなと親しみを込めた微笑を浮かべる様子が、見ずとも分かった。
ちなみに、瑞月の言う『年始のアルバイト』とはジュネスで雇われた臨時アルバイトについてを指す。人手が足りないと恥を忍んで陽介から応援を頼んだところ、なんと瑞月は頷いてくれたのだ。
揉みしだかれるような忙しさのなかで、最終日には2人して燃え尽きていた。
だが、大変なばかりでもなかった。臨時バイトの終わり、陽介が感謝として差し出した和菓子の詰め合わせを、瑞月の提案により鮫川のベンチで一緒に食べたのだ。陽介は断ろうとしたのだが──2人分のお茶を買ってきた瑞月の「花村も頑張ったんだから、ご褒美だご褒美」という主張に押し切られてしまった。
バイト終了後、「人が波のようだ……」とどこぞのジブリ映画の悪役じみたセリフをこぼしていた瑞月であったが、正月限定のちょっとお高い和菓子を前にした途端、ハイライトの消えた碧 の瞳を無邪気に輝かせた姿は年相応で可愛らしかった。やはり瑞月は甘いものが好きらしい。
──などと、忙しかった記憶に陽介が浸っていると、電話越しに瑞月がわざとらしく咳払いをする。
『まぁ、よい。明けましておめでとう。花村は今、何をしているんだ?』
「あいよ、おめでとさん。家でダラダラーッとテレビ見てる。お前は?」
『奇遇だな。同じく自宅だ。ただ、今から少し出かけようと思っていてな』
「ほぉー。こんな雪の日にか? 珍しいな。雪景色でも見ようって?」
『まさか、佳菜もいるからな。無理に遠出はさせられない』
「へー、佳菜ちゃんもいんのか。んじゃ、なおさらなんで出かけんのさ?」
『雪の日だから……かな』
意味深に瑞月は答える、陽介は首をかしげた。雪の積もる日に、瑞月はどこへ行こうとしているのか。ましてや、幼い佳菜を連れて。過保護な瑞月にしては行動のつじつまが合わない。
『実はな……』
陽介の疑問を察したのか、瑞月は詳細を話し始める。
そして──陽介は話を聞きおえた後、部屋着から動きやすい服装に着替え、戸締まりを済ませたのち、雪景色の町へと弾む足取りでくり出した。
2011年──きたる新年、卯年。晴れやかな年末年始とは名ばかりに、陽介は自宅のこたつに突っ伏していた。だらだらとミカンを剥きながら、リモコンを繰ってテレビのチャンネルを変えてみる。
「なんもやってねぇな……」
退屈ぎみに、陽介はひとりごちる。年末年始のお笑い特番、駅伝──陽介にとって目ぼしい番組はすべて終わってしまって、日常の堅苦しいトーク番組が戻ってきていた。ものものしい眼鏡をかけたゲストたちが大げさな様子で世論について騒ぎ立てている。
ハレとケ──日常と非日常の狭間にある、なんとも言えないタルんだ時間。年末年始の晴れやかな気分が、とりとめのない日常に戻る時間の流れを拒むような、心細いような、心の置き場がよく分からなくなる複雑な時間。
(といっても、何かしようって気にはなれないんだよなぁ……)
間の悪いことに、話ができる両親は仕事に出ていて不在だ。家にはひとり、陽介だけが取り残されている。部屋にこもっていても寂しいからと、こたつのあるリビングに来てみたけれど──
「雪、スゲー積もってんなぁ……」
──ガラス窓から見える、無機質な冷たい白に目がいくばかりだ。雪は止んでいるけれど、それでも寒いなか出歩く気にはなれず、陽介は家にこもっていた。
Pi Pi Pi Pi Pi Pi!!
「ウオッ!? なんだ? バイト先かぁ……?」
静かな時間は、けたたましいアラームに打ち破られる。陽介は慌てて騒がしく震えるスマホを取り上げた。通話相手を確認し、陽介は驚いて眉を上げる。電話をよこしたのは──友人の瀬名瑞月だ。陽介はすばやく画面をタップする。
「もしも──」
『陽介おにいちゃん! あけましておめでとう!』
幼い声に気だるさが打ち破られる。遊びざかりの子犬みたいに明るい声だ。それだけで、電話先の相手が満面の笑みで笑っていると知れた。
「え……、
『うん! 陽介おにいちゃん だいせいかい!』
佳菜だよ! と、無邪気な彼女はニコニコと答える。続いて、『かなー』と聞きなれた親友の声が佳菜を呼んだ。ただし、普段耳にするような凛と冷たい響きは薄れて、包み込むような柔らかさを伴っている。
『陽介おにいちゃんに挨拶はできたか?』
『うん! だいせいこう。すっごくすっごく おどろいてたよ!』
『ふふっ、それは良かったなぁ。では佳菜、私と交代してくれないか』
佳菜は元気よく返事をすると「おねえちゃんと かわるね!」と陽介に告げる。しばらく間が空いて、『もしもし、私だ』と短い応答があった。先程の柔らかさは消え、いつも耳にする清水のような声。陽介はにまりと、ある企みを実行する。
「もしもーし。聞こえてるぜ、『瑞月おねえちゃん』」
『喧嘩なら買うが? 私を『おねえちゃん』と呼んでいいのは佳菜だけだ』
「ごめんごめん。普段おサムライみたいにカッチコチなお前が、ちゃんとお姉ちゃんやってんのが面白かったんだよ。ビフォーアフター的な?」
『ほう? では、普段にぎやかしに徹しているきみが、年始のアルバイトで目まぐるしく働いて言葉もなくデロデロに椅子へとつっぷしていた様子は中々に見物であったな。『陽介おにいちゃん』?』
「ちょ、ヤメロヤメロ! お前のオニーチャン呼び背筋ムズムズするわッ。あとハズイこと思い出させんなし!」
『自業自得ではないか』
話している相手はいないというのに、陽介は身ぶり手振りで瑞月の言動にリアクションを示す。瑞月の呆れた──けれど仕方がないなと親しみを込めた微笑を浮かべる様子が、見ずとも分かった。
ちなみに、瑞月の言う『年始のアルバイト』とはジュネスで雇われた臨時アルバイトについてを指す。人手が足りないと恥を忍んで陽介から応援を頼んだところ、なんと瑞月は頷いてくれたのだ。
揉みしだかれるような忙しさのなかで、最終日には2人して燃え尽きていた。
だが、大変なばかりでもなかった。臨時バイトの終わり、陽介が感謝として差し出した和菓子の詰め合わせを、瑞月の提案により鮫川のベンチで一緒に食べたのだ。陽介は断ろうとしたのだが──2人分のお茶を買ってきた瑞月の「花村も頑張ったんだから、ご褒美だご褒美」という主張に押し切られてしまった。
バイト終了後、「人が波のようだ……」とどこぞのジブリ映画の悪役じみたセリフをこぼしていた瑞月であったが、正月限定のちょっとお高い和菓子を前にした途端、ハイライトの消えた
──などと、忙しかった記憶に陽介が浸っていると、電話越しに瑞月がわざとらしく咳払いをする。
『まぁ、よい。明けましておめでとう。花村は今、何をしているんだ?』
「あいよ、おめでとさん。家でダラダラーッとテレビ見てる。お前は?」
『奇遇だな。同じく自宅だ。ただ、今から少し出かけようと思っていてな』
「ほぉー。こんな雪の日にか? 珍しいな。雪景色でも見ようって?」
『まさか、佳菜もいるからな。無理に遠出はさせられない』
「へー、佳菜ちゃんもいんのか。んじゃ、なおさらなんで出かけんのさ?」
『雪の日だから……かな』
意味深に瑞月は答える、陽介は首をかしげた。雪の積もる日に、瑞月はどこへ行こうとしているのか。ましてや、幼い佳菜を連れて。過保護な瑞月にしては行動のつじつまが合わない。
『実はな……』
陽介の疑問を察したのか、瑞月は詳細を話し始める。
そして──陽介は話を聞きおえた後、部屋着から動きやすい服装に着替え、戸締まりを済ませたのち、雪景色の町へと弾む足取りでくり出した。