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ゆえに瑞月は、陽介の身に何かが降りかかれば黙ってはいない。あの優しい、人並外れて優しい親友の心を罅割ろうとするものが許せない。
そして、そんなものがあるのなら、瑞月はどんな手段を使っても叩き潰す。どんなにか狡猾で、あるいはどんなにか残虐な手段を使ったとしても。
無意識に、瑞月は瞳を鋭く引き絞る。冷徹な碧 の瞳に宿った苛烈な光に、ビクリと小西先輩は後ずさった。
凍てつく刃じみた殺気を放つ彼女に、小西先輩はとっさに取り繕う。
「う、うーんとね。別に何があるって訳じゃないんだけどね……、アイツってさ、お人好しじゃない。そのせいで、イロイロ抱え込んじゃうクセがあるのよ」
「ああ……そうですね」
「うん。だからね、友達である瀬名さんには無茶しないように注意しておいてほしいかなって」
「そうでしたか。承知しました。」
どうやら陽介の身に、重大な問題は降りかかっていないようだ。すっと、瑞月は身体から力を抜く。刃じみた殺気を解く彼女に、小西先輩はほっと胸を撫で下ろした。
それから、じっとつぶらな瞳を瑞月を向ける。
瑞月は違和感を覚えた。小西先輩は眩しいものに向けるような、もしくは興味深い事象を観察するように、瑞月に対して目を細めていたからだ。
瑞月は唇を引き結ぶ。一切の感情を漏らさないように。小西先輩は、瑞月を探ろうとしている。つぶらな瞳が好奇心を宿してこちらを見ていた。目的を告げずに、相手を探ろうとするのはフェアでないな。と瑞月の頭は冷めていた。
そして、不快な行動に対して瑞月が取る行動はひとつだ。
瑞月は小西先輩に背を向ける。そして素早くレジャーシートを畳み、傍らに控えてあった紙袋を片手で抱えた。面倒事は避けるに限る。
軽く頭をさげて瑞月は歩き出す。一応、相手は上級生だから最低限の礼儀は守った。
「それでは失礼します。次の授業は、移動教室ですので」
にべもなく、小西先輩を置き去りに瑞月は足を速めた。
しかし、瑞月は歩みを止める。建物の影から、人影が勢いよく飛び出したから。瑞月は瞳を丸くする。まろぶように飛び出した彼の肩に乗った、オレンジのヘッドフォンが日の光を受けて光る。
────陽介だ。てっきり来ないものだと思っていた瑞月は硬直した。
「うおっ、瀬名!?」
「花村……日直ではなかったのか?」
「終わったから来たんだよ! この前貸した漫画の感想、早く聞きたくってさ……」
瑞月はため息をつく。正直、陽介には来てほしくなかった。なぜなら、瑞月の後ろには陽介の片想いの相手——小西先輩がいるのだから。彼女がいるとわかったら、陽介は絶対に瑞月を巻き込んで騒ぐに違いなかった。必要がないのなら、瑞月は騒ぎを起こしたくないというのに、つくづく間が悪い。
「おーっす、花ちゃん。そんな息せききってどうしたよー」
「えっ!? 小西先輩、なんでここに?」
「んー、偶然散歩してたら、その子がいたから話してたんだ。その子、花ちゃんのお友だちなんだってねー。すごいグーゼン」
小西先輩はあっけらかんと言い放つ。意図的に瑞月との関係について情報を伏せているのは、自分の実家について、ジュネス関係者である陽介に感づかれないための処置だろう。やはり小西先輩は強かだ。
(まぁ……花村は知っているのだがな)
話がややこしくなるので、瑞月も便乗でだんまりを決め込む。すると、空気を読んだのか、はたまた、好きな人の思わぬ登場に動揺しているのか、陽介はカエルのようにピョーーーンと跳ぶ。瑞月は思わず口の端が緩んだ。
「ええ!? 何話してたワケ……? 瀬名、俺の恥ずかしいエピソードとか話してないよなっ」
「どれを話せと言うんだ。せいぜい、昼休みにオススメできる散歩スポットをピックアップしただけよ。君については別に話していない」
「どれって……そんなストックあんのォ!?」
「むしろ、どうして少ないと思い込んでいたんだ?」
陽介の様子は大変に分かりやすかった。好きな人を前にして挙動不審になる様が何ともウブだ。まるで、リアクション芸人を前にしているようなやり取りに、小西先輩はまじまじと観察している。
「…………2人とも、すごく仲いいんだね」
「「ただの友人(友達)ですが」ッ」
「わー、ホントに仲良しだ」
意図せず陽介と瑞月がハモッた。小西先輩が面白そうに手を合わせる。
「花ちゃん、バイト先では友達見ないから、いるとしたらどんな子か気になってたんだよね。そうか、わりとドライな娘なんだね。明るい花ちゃんにしては意外かも」
「ちょっ、先輩。ダチの前で余計なコト言わないでよっ!」
「そんなドライな人間にも、面倒見のいい友人です。私はいつも助けられていますよ」
「お前もナニ言ってんの!?」
瑞月がアピールしたというのに、困って顔を青ざめさせた途端に、照れて赤くなる。百面相をする花村は非常に愉快だ。喜怒哀楽のバリエーションが豊かなので、瑞月は陽介がいると飽きない。
「あはは、冗談だって。花ちゃん、自分のコトになると抜けてるからさ、無理してないかよく見てやって」
「そうしています。倒れたら本人も困るでしょうし」
────何よりも、私が倒れてほしくないので。
心の中で、瑞月は密やかに付け加えた。
「そっか、じゃあね」
瑞月の返答を聞き届けた小西先輩は軽やかに駆け出した。予兆なく起こる木枯らしのごとく、あっという間に姿が見えなくなる。対する瑞月は木立のように突っ立って、陽介は散らされた葉を思わせる力の抜け様でうずくまった。
「結局なにがしたかったんだ……あの人は」
「あの人はほんともー、わざわざ本人を目の前にして、あんなこと言うかよ。ホント世話焼きっていうか……」
陽介は膝に顔を埋めているが、隠れなかった耳が赤く染まっている。指摘するのも野暮だと、瑞月は何も言わなかった。しかし、瑞月が何かしないと陽介は動きそうにない。
「それでは先輩に指摘された通りにしよう」
「へ?何が?」
「『無理してないかよく見てやって』」
瑞月は膝を折って、うずくまる陽介と顔を突き合せた。片手に持っていた紙袋を瑞月は眼前に突き付ける。白く、シンプルな紙袋には楕円形の金シールがリボン付きで貼られている。
「メリークリスマス。年末年始、怒濤の連勤にのぞむ花村に細 やかなプレゼントだ」
「はっ!? なに? どんなサプライズだよっ。つか、先輩の言葉全然カンケーなくね!?」
「驚きすぎて大声を出すでない喉を痛める」
陽介は目玉が飛び出んばかりに紙袋を凝視している。驚いたままに大口を開けて固まっているので、せっかくのきれいな顔が台無しだ。人体の神秘さえ感じて、瑞月は声もなく感動する。
「パーティーグッズのやかましい黄色い鳥みたいな顔はやめて、受け取るか受け取れないか決めてくれ。チキンなら鳴くくらいできるだろう」
「ガーガーチキンな!? チキンは今頃、おいしく出荷されてるから鳴くに鳴けねぇんだよ! つか俺はチキンじゃねぇ! 本物のチキンはジュネスでどうぞお買い上げください!!」
「もう買わせてもらった。それから、私はチキン相手に贈り物をする趣味はない。それで、受け取るのか? 受け取らないのか? 貰わない場合は処分とする」
「……受け取ります。あんがと……」
「結構。ちなみに借りた漫画は、アクションが面白かった」
陽介は荒れた両手で紙袋を丁寧に受け取る。寒さのせいか、陽介の手が震えていたので、冷たい手を掴んで、瑞月は校内へと陽介を誘導した。踊り場にいるのは2人だけだ。教室に戻ろうと階段に足をかけた瑞月に、「あのさ」と陽介が呼びかける。
「ホントはこういうの、家で開けるのがいいんだろうけど、ここで開けていいか?」
「……いいとも。使用方法も私から答えられるしな」
陽介は深く頷くと、封となっているシールまで傷つけないようにゆっくりと紙袋を開いた。中から出てきたのは、なめらかな布地の手袋。防寒具としては生地が薄いそれを、陽介はキョトンと要領を得ない様子で見つめている。
「これって……」
「絹手袋だ。保湿効果が高いから、寝るときに着用すると手荒れの改善につながる。選択が手洗いしかできないのが、少し面倒だがな」
「絹!? 絹って、あの!? なんつー高級品を……」
「いや、それほど高価でもない。学生でも手にできる代物だが」
ギョッとする陽介に答えた瑞月は、あかぎれとさかむけができた陽介の手に視線を落とす。
陽介はアルバイトで手をよく使うせいか、大気が乾燥している今の時期はさかむけが多かった。ハンドクリームを塗っても、クルクルとよく働く陽介の手には馴染まず、すぐに剥がれてしまうのだ。
瑞月は、様々なものを与えてくれる陽介の手を好ましく思っている。だから、傷ついてほしくないし、傷がついたとしてもきちんと直るように、何かしたかった。
大きめのサイズを2組用意したので、交互に使える。値段もスキンケア用に絞れば値段は張らない。小西先輩の言う『無理してないかよく見てやった』結果のプレゼントであった。
「……サンキュな。なんか、すげー嬉しい」
そういって、陽介は震える声で微笑む。先ほどガーガーチキン顔をお披露目したとは思えない、花がほころぶような繊細な笑みだ。瑞月はその温かい色が幾重にも重ねられた陽介の笑顔を見ると、胸のあたりがほわりと温かくなる。
「……手荒れといえども、やはり怪我には変わらない。大事にすることだ」
「あ! でもこーいうプレゼントのことは今度から事前に言っとけよ。クリスマスプレゼントっていうのは交換するものなんだから」
宣戦布告を突き付けるように、陽介は瑞月に人差し指を向けた。瑞月は口元に手を当てて思案する。
「サンタさんからの贈り物だと考えておけばいい。今年、頑張った花村へのプレゼントだ」
「自分からサンタ宣言するやつがあるかよ……」
「それがここにいるのだな。出自の分からんプレゼントに不審がられたら元も子もないだろう。私のお義父 さんも、わざわざ名刺を置いていったものだ。”サンタ商事”という社名でな」
「まさかのサンタ委託事業!?」
驚いた陽介が身体を反らす。その様子が賑やかで、瑞月は無意識に緩んだ頬を覆い隠す。わなわなと身体を震わせ、何かを決意したのか、わっと宣言する。
そして、そんなものがあるのなら、瑞月はどんな手段を使っても叩き潰す。どんなにか狡猾で、あるいはどんなにか残虐な手段を使ったとしても。
無意識に、瑞月は瞳を鋭く引き絞る。冷徹な
凍てつく刃じみた殺気を放つ彼女に、小西先輩はとっさに取り繕う。
「う、うーんとね。別に何があるって訳じゃないんだけどね……、アイツってさ、お人好しじゃない。そのせいで、イロイロ抱え込んじゃうクセがあるのよ」
「ああ……そうですね」
「うん。だからね、友達である瀬名さんには無茶しないように注意しておいてほしいかなって」
「そうでしたか。承知しました。」
どうやら陽介の身に、重大な問題は降りかかっていないようだ。すっと、瑞月は身体から力を抜く。刃じみた殺気を解く彼女に、小西先輩はほっと胸を撫で下ろした。
それから、じっとつぶらな瞳を瑞月を向ける。
瑞月は違和感を覚えた。小西先輩は眩しいものに向けるような、もしくは興味深い事象を観察するように、瑞月に対して目を細めていたからだ。
瑞月は唇を引き結ぶ。一切の感情を漏らさないように。小西先輩は、瑞月を探ろうとしている。つぶらな瞳が好奇心を宿してこちらを見ていた。目的を告げずに、相手を探ろうとするのはフェアでないな。と瑞月の頭は冷めていた。
そして、不快な行動に対して瑞月が取る行動はひとつだ。
瑞月は小西先輩に背を向ける。そして素早くレジャーシートを畳み、傍らに控えてあった紙袋を片手で抱えた。面倒事は避けるに限る。
軽く頭をさげて瑞月は歩き出す。一応、相手は上級生だから最低限の礼儀は守った。
「それでは失礼します。次の授業は、移動教室ですので」
にべもなく、小西先輩を置き去りに瑞月は足を速めた。
しかし、瑞月は歩みを止める。建物の影から、人影が勢いよく飛び出したから。瑞月は瞳を丸くする。まろぶように飛び出した彼の肩に乗った、オレンジのヘッドフォンが日の光を受けて光る。
────陽介だ。てっきり来ないものだと思っていた瑞月は硬直した。
「うおっ、瀬名!?」
「花村……日直ではなかったのか?」
「終わったから来たんだよ! この前貸した漫画の感想、早く聞きたくってさ……」
瑞月はため息をつく。正直、陽介には来てほしくなかった。なぜなら、瑞月の後ろには陽介の片想いの相手——小西先輩がいるのだから。彼女がいるとわかったら、陽介は絶対に瑞月を巻き込んで騒ぐに違いなかった。必要がないのなら、瑞月は騒ぎを起こしたくないというのに、つくづく間が悪い。
「おーっす、花ちゃん。そんな息せききってどうしたよー」
「えっ!? 小西先輩、なんでここに?」
「んー、偶然散歩してたら、その子がいたから話してたんだ。その子、花ちゃんのお友だちなんだってねー。すごいグーゼン」
小西先輩はあっけらかんと言い放つ。意図的に瑞月との関係について情報を伏せているのは、自分の実家について、ジュネス関係者である陽介に感づかれないための処置だろう。やはり小西先輩は強かだ。
(まぁ……花村は知っているのだがな)
話がややこしくなるので、瑞月も便乗でだんまりを決め込む。すると、空気を読んだのか、はたまた、好きな人の思わぬ登場に動揺しているのか、陽介はカエルのようにピョーーーンと跳ぶ。瑞月は思わず口の端が緩んだ。
「ええ!? 何話してたワケ……? 瀬名、俺の恥ずかしいエピソードとか話してないよなっ」
「どれを話せと言うんだ。せいぜい、昼休みにオススメできる散歩スポットをピックアップしただけよ。君については別に話していない」
「どれって……そんなストックあんのォ!?」
「むしろ、どうして少ないと思い込んでいたんだ?」
陽介の様子は大変に分かりやすかった。好きな人を前にして挙動不審になる様が何ともウブだ。まるで、リアクション芸人を前にしているようなやり取りに、小西先輩はまじまじと観察している。
「…………2人とも、すごく仲いいんだね」
「「ただの友人(友達)ですが」ッ」
「わー、ホントに仲良しだ」
意図せず陽介と瑞月がハモッた。小西先輩が面白そうに手を合わせる。
「花ちゃん、バイト先では友達見ないから、いるとしたらどんな子か気になってたんだよね。そうか、わりとドライな娘なんだね。明るい花ちゃんにしては意外かも」
「ちょっ、先輩。ダチの前で余計なコト言わないでよっ!」
「そんなドライな人間にも、面倒見のいい友人です。私はいつも助けられていますよ」
「お前もナニ言ってんの!?」
瑞月がアピールしたというのに、困って顔を青ざめさせた途端に、照れて赤くなる。百面相をする花村は非常に愉快だ。喜怒哀楽のバリエーションが豊かなので、瑞月は陽介がいると飽きない。
「あはは、冗談だって。花ちゃん、自分のコトになると抜けてるからさ、無理してないかよく見てやって」
「そうしています。倒れたら本人も困るでしょうし」
────何よりも、私が倒れてほしくないので。
心の中で、瑞月は密やかに付け加えた。
「そっか、じゃあね」
瑞月の返答を聞き届けた小西先輩は軽やかに駆け出した。予兆なく起こる木枯らしのごとく、あっという間に姿が見えなくなる。対する瑞月は木立のように突っ立って、陽介は散らされた葉を思わせる力の抜け様でうずくまった。
「結局なにがしたかったんだ……あの人は」
「あの人はほんともー、わざわざ本人を目の前にして、あんなこと言うかよ。ホント世話焼きっていうか……」
陽介は膝に顔を埋めているが、隠れなかった耳が赤く染まっている。指摘するのも野暮だと、瑞月は何も言わなかった。しかし、瑞月が何かしないと陽介は動きそうにない。
「それでは先輩に指摘された通りにしよう」
「へ?何が?」
「『無理してないかよく見てやって』」
瑞月は膝を折って、うずくまる陽介と顔を突き合せた。片手に持っていた紙袋を瑞月は眼前に突き付ける。白く、シンプルな紙袋には楕円形の金シールがリボン付きで貼られている。
「メリークリスマス。年末年始、怒濤の連勤にのぞむ花村に
「はっ!? なに? どんなサプライズだよっ。つか、先輩の言葉全然カンケーなくね!?」
「驚きすぎて大声を出すでない喉を痛める」
陽介は目玉が飛び出んばかりに紙袋を凝視している。驚いたままに大口を開けて固まっているので、せっかくのきれいな顔が台無しだ。人体の神秘さえ感じて、瑞月は声もなく感動する。
「パーティーグッズのやかましい黄色い鳥みたいな顔はやめて、受け取るか受け取れないか決めてくれ。チキンなら鳴くくらいできるだろう」
「ガーガーチキンな!? チキンは今頃、おいしく出荷されてるから鳴くに鳴けねぇんだよ! つか俺はチキンじゃねぇ! 本物のチキンはジュネスでどうぞお買い上げください!!」
「もう買わせてもらった。それから、私はチキン相手に贈り物をする趣味はない。それで、受け取るのか? 受け取らないのか? 貰わない場合は処分とする」
「……受け取ります。あんがと……」
「結構。ちなみに借りた漫画は、アクションが面白かった」
陽介は荒れた両手で紙袋を丁寧に受け取る。寒さのせいか、陽介の手が震えていたので、冷たい手を掴んで、瑞月は校内へと陽介を誘導した。踊り場にいるのは2人だけだ。教室に戻ろうと階段に足をかけた瑞月に、「あのさ」と陽介が呼びかける。
「ホントはこういうの、家で開けるのがいいんだろうけど、ここで開けていいか?」
「……いいとも。使用方法も私から答えられるしな」
陽介は深く頷くと、封となっているシールまで傷つけないようにゆっくりと紙袋を開いた。中から出てきたのは、なめらかな布地の手袋。防寒具としては生地が薄いそれを、陽介はキョトンと要領を得ない様子で見つめている。
「これって……」
「絹手袋だ。保湿効果が高いから、寝るときに着用すると手荒れの改善につながる。選択が手洗いしかできないのが、少し面倒だがな」
「絹!? 絹って、あの!? なんつー高級品を……」
「いや、それほど高価でもない。学生でも手にできる代物だが」
ギョッとする陽介に答えた瑞月は、あかぎれとさかむけができた陽介の手に視線を落とす。
陽介はアルバイトで手をよく使うせいか、大気が乾燥している今の時期はさかむけが多かった。ハンドクリームを塗っても、クルクルとよく働く陽介の手には馴染まず、すぐに剥がれてしまうのだ。
瑞月は、様々なものを与えてくれる陽介の手を好ましく思っている。だから、傷ついてほしくないし、傷がついたとしてもきちんと直るように、何かしたかった。
大きめのサイズを2組用意したので、交互に使える。値段もスキンケア用に絞れば値段は張らない。小西先輩の言う『無理してないかよく見てやった』結果のプレゼントであった。
「……サンキュな。なんか、すげー嬉しい」
そういって、陽介は震える声で微笑む。先ほどガーガーチキン顔をお披露目したとは思えない、花がほころぶような繊細な笑みだ。瑞月はその温かい色が幾重にも重ねられた陽介の笑顔を見ると、胸のあたりがほわりと温かくなる。
「……手荒れといえども、やはり怪我には変わらない。大事にすることだ」
「あ! でもこーいうプレゼントのことは今度から事前に言っとけよ。クリスマスプレゼントっていうのは交換するものなんだから」
宣戦布告を突き付けるように、陽介は瑞月に人差し指を向けた。瑞月は口元に手を当てて思案する。
「サンタさんからの贈り物だと考えておけばいい。今年、頑張った花村へのプレゼントだ」
「自分からサンタ宣言するやつがあるかよ……」
「それがここにいるのだな。出自の分からんプレゼントに不審がられたら元も子もないだろう。私のお
「まさかのサンタ委託事業!?」
驚いた陽介が身体を反らす。その様子が賑やかで、瑞月は無意識に緩んだ頬を覆い隠す。わなわなと身体を震わせ、何かを決意したのか、わっと宣言する。