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喫茶店を出た後、2人は沖奈のショッピングモールを一通りめぐった。
CDショップでは、陽介が気に入っているバンドのシングルを試聴した瑞月が宇宙猫顔を披露した。珍しい食材を中心に扱うコーヒーショップでは、瀬名家で好評だというお菓子を、陽介もお土産用に一つ買った。
冷やかしに通りかかったバイクショップでは、憧れを込めてバイク用品を見つめる陽介に、瑞月はいまひとつ納得できない表情を浮かべていた。自動車の方が安全では? とのこと。けれど嬉々として陽介が語ったバイクの魅力を遮ったりはしなかった。
本が好きだという瑞月は、本屋にて数冊の書籍を購入していた。文庫本にレシピ、風景の写真集、絵本など、買ったもののジャンルがバラバラで陽介は驚いた。気になりさえすれば、瑞月はわりとなんでも読む人間らしい。それで何回か痛い目を見たと、珍しく瑞月は苦笑いしていた。
二人は楽しい時間を過ごした。しかし、目当てのショップをすべて見終えると、歩き疲れてクタクタだった。しかし──
「どーすっかな、けっこう時間あまったよな」
「ああ、一時間くらい余裕があるな」
──陽介はスマホ画面に顔をしかめる。帰りに利用する電車まで、時間が余ってしまったのだ。八十稲羽まで走る電車は少ないため、時間を繰り上げることもできない。何とかして暇をつぶす必要が出てきた。モールの壁に寄りかかり、陽介がため息をつく。
「気になる店も、全部回っちまったしなぁ……。一時間駅ナカで待ってるのもキツいし……」
「もう一度、ウィンドウショッピングにでも繰り出す、というのもな」
「うーん、コレが『お手上げ侍』ってやつかぁ。参った参った」
「……なんだそれは? 上段から刀でも振るうのか?」
「いや、物騒! フツーに『お手上げ』って意味だよ! 『切り捨て御免』ってワケじゃねーよ!?」
打つ手なし降参。と手をあげる陽介は、内心でため息を吐く。こうして瑞月と話しているのも楽しいが、せっかく楽しい一日になったのだから、最後がタダの駄弁 ったやり取りで終わるのはもったいない気がする。
「あ」
すると突然、瑞月が短く、ハッとした声を上げた。何事かと、陽介が閉じた瞳を開くと、瑞月がある一点に目を向けている。
「花村! 映画の半券を持っているか?」
「は、映画のチケット……? 多分、財布にあるけど」
それがどうした、と首をかしげる陽介に、瑞月が視線と同じ方向を指さす。モールに設置されたゲームセンタの軒先に『映画の半券をお持ちの方、5プレイ無料』とポスターが掲げられていた。
◇◇◇
都会にいたころは、仲のいいクラスメイトたちと共に遊んだゲーセン。しかし、八十稲羽に越して来てからはすっかりご無沙汰になっていた。刺激的な光を放つモニターに、懐かしささえ覚えて陽介はため息をこぼす。
「へぇ、結構、種類あんだな。カーレースゲーに、ガンシューティング、リズムゲーとかもあんじゃん」
「どの機械もまぶしいな。こういう場所には初めて入るから、何というか、圧巻だ」
「やっぱな。瀬名ってゲームはどれくらいやるわけ?」
「未経験だ。こうしたモニターを使うものはやったことがない」
首を横に振る瑞月に「デジタルゲームな」と陽介は教え込む。もう少し詳しく訊いたところ、瑞月のゲーム経験はトランプ・すごろく・オセロなど、アナログゲームで止まっていた。とんだ箱入り娘である。だが、彼女は好奇心が強かった。
ゆえに初めて見る、所狭しと並んだゲーム装置へと、瑞月は物珍しそうに顔を近づけている。
手近にあったゲーム機のモニターに触れて閃光が飛び散る様子に、瑞月は「わっ」と片手を引っ込める。その機械に陽介は見覚えがあった。
「あ俺コレ知ってる。リズムに合わせてボタン叩くやつなんだけど、タイミングあったときのエフェクトがむっちゃ派手で爽快なんだよな」
「叩く? 楽器のドラムみたいにするのか? リズムを取って?」
「そそ、まぁあれと違って、手だけでバチは使わないけど。イヤなっついわー。俺の得意曲まだあったりするんかな?」
「やってみればいいのではないか?」
「それもそうだな。じゃ、俺の華麗なプレイに見とれるなよ!」
「花村、それは死亡フラグというヤツではないか?」
瑞月のツッコミなど何のその。陽介は慣れた様子でモニターを操作し、持ち前の曲を検索した。結果、ヒット。陽介の記憶では音符となるノートが単純な曲であったはずだ。難易度をスタンダードに設定し、スタートボタンをタッチする。頭に譜面を思い浮かべて、陽介はモニター上を飛んでくるノートに備える。が──
「えっ、えっ! ちょっ、ノート見直されたの!? ウソだろ、うわわわ!!」
──陽介が知らないうちに難易度の調整がされたらしい。陽介の記憶を裏切って譜面がかなり複雑になっていた。反射神経をフルで活用して必死にノートを拾っていく。
結果は——クリア。しかし、不合格となるギリギリだ。短時間の曲だったというのに、身体を駆使したせいか、息が切れている。
「や、やったぜ。なんとか、クリア」
「おお、すごかったぞ花村。自分でハードルをあげたせいで若干形無しではあるが」
「うるせーー!! 譜面が変わってるなんて知らなかったんだよ! なんとかクリアしたんだからセーフだろうがっ」
軽く手を叩く瑞月が図星を突いた。陽介は息を切らして休憩用のベンチに座る。大口をたたいてショボい結果というのがなんとも情けなかった。
「しかし、よくあんなに勢いよく流れてくる光? 花火? を捌けたな。私には難しそうだ」
「ノートな……。音符のかわりにリズムとるやつ。瀬名もやってみるか?」
というわけで、息も切れ切れな陽介に変わり、瑞月はゲーム機の前に立つ。難易度はいちばん易しいもので、選曲は『魔女探偵 ラブリーン』の主題歌。
「まさかの幼児向け番組」
「妹 が好きでな。一緒に見ているんだ」
そうして瑞月が構え、軽快なメロディが流れ始める。
────数分後。
「……瀬名、お前は頑張ったよ」
「言うな、花村……! ちょっと自分でもショックを受けているんだ。傷口に塩を塗らないでくれ……!」
瑞月の結果、それはそれは惨憺たるものだった。
難易度イージーにもかかわらず、ノートをとるタイミングが致命的にずれているのは当たり前。タイミングがあったとしても間違ったボタンを押す、手が絡まり合って動かなくなるなど、端から見ると滑稽な動きを連発した。それを、同じ曲で2回も。難易度イージーであるにも関わらず、である。当然スコアがとれずクリアできなかった。
陽介はあまりの悲惨さに目をつぶり、ある意味奇跡的なスコアをたたき出した本人は絶望している。
「お前、めちゃくちゃリズムゲー苦手じゃねーか。運動神経がこんがらがってたぞ」
「た、たまたま、このゲームが苦手だったのかもしれない! 他のゲームには適性があるかもしれないだろうっ。そうだ、向こうの車を扱うゲームをやってみようじゃないか!」
「あ、ちょっ、待てって、瀬名!」
そのまま2人はいくつかジャンルの違うゲームをやったが、すべてにおいて瑞月は見事に討ち死にした。
カーレースでは逆走を決めた上で車体を大破させ、ガンシューティングでは、画面に目眩を決めモンスターに不覚をとられた。陽介はあまりの珍プレイに心の中で叫んでしまったほどだ。最後には、格ゲーでは同じコマンドしか選択できず一律の動きを繰り返すマシーンとなってCPUに撃破された。
あまりの珍プレイの連続に、陽介は「なんでそうなる!?」と心の中で叫んでしまった。正直、才能すら感じるほど壊滅的に、瑞月はデジタルゲームがヘタクソだった。
そして、格闘ゲームで撃破された瑞月はというと、震える手でコントローラを握っている。
「ゲ、ゲームとはとても難しいものなのだな。花村はよく、これで遊べる……」
「いや、お前がヘタ過ぎんだよ。俺だってそこまでやりこんでないからな。むしろお前のソレは才能だ」
「うぅ、どのゲームも手も足も出なかった……。もう無料チケットが終わってしまった……お手上げ侍だ……」
惨敗を喫した瑞月は口をへの字に曲げている。リズムゲーを2回、3種類のゲームを一回ずつプレイしたので、5回あった瑞月の無料チケットは空になってしまった。
瑞月の悔しそうな表情に、陽介は居たたまれなさを覚える。せっかく、楽しい休日だったのに、ゲームに惨敗して苦い思いで終わらせてしまうのは、あまりにも忍びない。
(なんとかできないか……? あ……)
不意に、陽介は気がついた。なんの幸いか、陽介の手元にはもう一枚無料チケットがある。先程の瑞月と違い、リズムゲームを1回で済ませたゆえに残ったものだ。
(なんか、なんか、ないか!? 技術がなくても出来て、必ず結果が出るゲーム。────って、あ!)
視線をさまよわせると、あるゲーム機が目に留まった。起死回生のチャンスは得た。陽介は明るく、傷心気味の瑞月に話しかける。
「瀬名……あれならお前もできんじゃね?」
陽介が示したのはキャンディの積まれたベンディングマシン——言ってしまえば当たりつきの自動販売機である。ボタンを押すと1から9までの数字がランダムで表示されるルーレットが始まり、数の大きさに応じて景品が貰えるという代物だ。プレイヤーの技術は必要ではなく、完全に運が関わってくるゲーム。そして、多かれ少なかれ景品は絶対に貰える。
陽介は無料チケットを店員に提示し、ベンディングマシンを起動させた。ルーレットがランダムに数字を表示して輝く。そうして、意気消沈気味の瑞月に陽介は近づいた。
「瀬名、こっち来てやってみ? このゲームなら絶対お前もできるからさ」
「あ……いや、でも私は」
「もうゲーム始まってんぞ。あと、俺こういう運が関わるゲームはあんま強くないんだよ。やっても大抵残念賞しかとれねぇんだよなぁ。つーわけでお前に任せる」
「はっ!?」
「ほれ、お客さん集まって来るぞー。お前がやらなきゃ押す人いないんだけどなぁ」
陽介は両手をあげ『お手上げ侍』のポーズをとる。手は出さないという意志表示だ。瑞月は観念したかのようにトボトボと立ち上がり、ベンディングマシンの前に立った。恐る恐る、彼女はルーレットのボタンを押す。
結果は——8、大当たりだ。ドサドサドサッ! と景品のキャンディが取り出し口に落ちてくる。陽介は破顔して、ベンディングマシンと、棒立ちになった瑞月のもとに駆け寄った。
「よっしゃ、やったじゃねーか瀬名! 大当たりだぞ。コレがほんとの『終わりよければすべてよし』ってヤツだな!」
「と、取れた。ルーレット回しただけだけれど……」
陽介ははしゃいでキャンディを取りにかかる。瑞月はおずおずとその様子を覗き込んだ。取り出し口から現れたキャンディを手のひらに載せて、陽介は瑞月の眼前に突き出す。山盛りのキャンディと、からりと笑った陽介を交互に見つめて、瑞月は控えめに微笑んだ。
CDショップでは、陽介が気に入っているバンドのシングルを試聴した瑞月が宇宙猫顔を披露した。珍しい食材を中心に扱うコーヒーショップでは、瀬名家で好評だというお菓子を、陽介もお土産用に一つ買った。
冷やかしに通りかかったバイクショップでは、憧れを込めてバイク用品を見つめる陽介に、瑞月はいまひとつ納得できない表情を浮かべていた。自動車の方が安全では? とのこと。けれど嬉々として陽介が語ったバイクの魅力を遮ったりはしなかった。
本が好きだという瑞月は、本屋にて数冊の書籍を購入していた。文庫本にレシピ、風景の写真集、絵本など、買ったもののジャンルがバラバラで陽介は驚いた。気になりさえすれば、瑞月はわりとなんでも読む人間らしい。それで何回か痛い目を見たと、珍しく瑞月は苦笑いしていた。
二人は楽しい時間を過ごした。しかし、目当てのショップをすべて見終えると、歩き疲れてクタクタだった。しかし──
「どーすっかな、けっこう時間あまったよな」
「ああ、一時間くらい余裕があるな」
──陽介はスマホ画面に顔をしかめる。帰りに利用する電車まで、時間が余ってしまったのだ。八十稲羽まで走る電車は少ないため、時間を繰り上げることもできない。何とかして暇をつぶす必要が出てきた。モールの壁に寄りかかり、陽介がため息をつく。
「気になる店も、全部回っちまったしなぁ……。一時間駅ナカで待ってるのもキツいし……」
「もう一度、ウィンドウショッピングにでも繰り出す、というのもな」
「うーん、コレが『お手上げ侍』ってやつかぁ。参った参った」
「……なんだそれは? 上段から刀でも振るうのか?」
「いや、物騒! フツーに『お手上げ』って意味だよ! 『切り捨て御免』ってワケじゃねーよ!?」
打つ手なし降参。と手をあげる陽介は、内心でため息を吐く。こうして瑞月と話しているのも楽しいが、せっかく楽しい一日になったのだから、最後がタダの
「あ」
すると突然、瑞月が短く、ハッとした声を上げた。何事かと、陽介が閉じた瞳を開くと、瑞月がある一点に目を向けている。
「花村! 映画の半券を持っているか?」
「は、映画のチケット……? 多分、財布にあるけど」
それがどうした、と首をかしげる陽介に、瑞月が視線と同じ方向を指さす。モールに設置されたゲームセンタの軒先に『映画の半券をお持ちの方、5プレイ無料』とポスターが掲げられていた。
◇◇◇
都会にいたころは、仲のいいクラスメイトたちと共に遊んだゲーセン。しかし、八十稲羽に越して来てからはすっかりご無沙汰になっていた。刺激的な光を放つモニターに、懐かしささえ覚えて陽介はため息をこぼす。
「へぇ、結構、種類あんだな。カーレースゲーに、ガンシューティング、リズムゲーとかもあんじゃん」
「どの機械もまぶしいな。こういう場所には初めて入るから、何というか、圧巻だ」
「やっぱな。瀬名ってゲームはどれくらいやるわけ?」
「未経験だ。こうしたモニターを使うものはやったことがない」
首を横に振る瑞月に「デジタルゲームな」と陽介は教え込む。もう少し詳しく訊いたところ、瑞月のゲーム経験はトランプ・すごろく・オセロなど、アナログゲームで止まっていた。とんだ箱入り娘である。だが、彼女は好奇心が強かった。
ゆえに初めて見る、所狭しと並んだゲーム装置へと、瑞月は物珍しそうに顔を近づけている。
手近にあったゲーム機のモニターに触れて閃光が飛び散る様子に、瑞月は「わっ」と片手を引っ込める。その機械に陽介は見覚えがあった。
「あ俺コレ知ってる。リズムに合わせてボタン叩くやつなんだけど、タイミングあったときのエフェクトがむっちゃ派手で爽快なんだよな」
「叩く? 楽器のドラムみたいにするのか? リズムを取って?」
「そそ、まぁあれと違って、手だけでバチは使わないけど。イヤなっついわー。俺の得意曲まだあったりするんかな?」
「やってみればいいのではないか?」
「それもそうだな。じゃ、俺の華麗なプレイに見とれるなよ!」
「花村、それは死亡フラグというヤツではないか?」
瑞月のツッコミなど何のその。陽介は慣れた様子でモニターを操作し、持ち前の曲を検索した。結果、ヒット。陽介の記憶では音符となるノートが単純な曲であったはずだ。難易度をスタンダードに設定し、スタートボタンをタッチする。頭に譜面を思い浮かべて、陽介はモニター上を飛んでくるノートに備える。が──
「えっ、えっ! ちょっ、ノート見直されたの!? ウソだろ、うわわわ!!」
──陽介が知らないうちに難易度の調整がされたらしい。陽介の記憶を裏切って譜面がかなり複雑になっていた。反射神経をフルで活用して必死にノートを拾っていく。
結果は——クリア。しかし、不合格となるギリギリだ。短時間の曲だったというのに、身体を駆使したせいか、息が切れている。
「や、やったぜ。なんとか、クリア」
「おお、すごかったぞ花村。自分でハードルをあげたせいで若干形無しではあるが」
「うるせーー!! 譜面が変わってるなんて知らなかったんだよ! なんとかクリアしたんだからセーフだろうがっ」
軽く手を叩く瑞月が図星を突いた。陽介は息を切らして休憩用のベンチに座る。大口をたたいてショボい結果というのがなんとも情けなかった。
「しかし、よくあんなに勢いよく流れてくる光? 花火? を捌けたな。私には難しそうだ」
「ノートな……。音符のかわりにリズムとるやつ。瀬名もやってみるか?」
というわけで、息も切れ切れな陽介に変わり、瑞月はゲーム機の前に立つ。難易度はいちばん易しいもので、選曲は『魔女探偵 ラブリーン』の主題歌。
「まさかの幼児向け番組」
「
そうして瑞月が構え、軽快なメロディが流れ始める。
────数分後。
「……瀬名、お前は頑張ったよ」
「言うな、花村……! ちょっと自分でもショックを受けているんだ。傷口に塩を塗らないでくれ……!」
瑞月の結果、それはそれは惨憺たるものだった。
難易度イージーにもかかわらず、ノートをとるタイミングが致命的にずれているのは当たり前。タイミングがあったとしても間違ったボタンを押す、手が絡まり合って動かなくなるなど、端から見ると滑稽な動きを連発した。それを、同じ曲で2回も。難易度イージーであるにも関わらず、である。当然スコアがとれずクリアできなかった。
陽介はあまりの悲惨さに目をつぶり、ある意味奇跡的なスコアをたたき出した本人は絶望している。
「お前、めちゃくちゃリズムゲー苦手じゃねーか。運動神経がこんがらがってたぞ」
「た、たまたま、このゲームが苦手だったのかもしれない! 他のゲームには適性があるかもしれないだろうっ。そうだ、向こうの車を扱うゲームをやってみようじゃないか!」
「あ、ちょっ、待てって、瀬名!」
そのまま2人はいくつかジャンルの違うゲームをやったが、すべてにおいて瑞月は見事に討ち死にした。
カーレースでは逆走を決めた上で車体を大破させ、ガンシューティングでは、画面に目眩を決めモンスターに不覚をとられた。陽介はあまりの珍プレイに心の中で叫んでしまったほどだ。最後には、格ゲーでは同じコマンドしか選択できず一律の動きを繰り返すマシーンとなってCPUに撃破された。
あまりの珍プレイの連続に、陽介は「なんでそうなる!?」と心の中で叫んでしまった。正直、才能すら感じるほど壊滅的に、瑞月はデジタルゲームがヘタクソだった。
そして、格闘ゲームで撃破された瑞月はというと、震える手でコントローラを握っている。
「ゲ、ゲームとはとても難しいものなのだな。花村はよく、これで遊べる……」
「いや、お前がヘタ過ぎんだよ。俺だってそこまでやりこんでないからな。むしろお前のソレは才能だ」
「うぅ、どのゲームも手も足も出なかった……。もう無料チケットが終わってしまった……お手上げ侍だ……」
惨敗を喫した瑞月は口をへの字に曲げている。リズムゲーを2回、3種類のゲームを一回ずつプレイしたので、5回あった瑞月の無料チケットは空になってしまった。
瑞月の悔しそうな表情に、陽介は居たたまれなさを覚える。せっかく、楽しい休日だったのに、ゲームに惨敗して苦い思いで終わらせてしまうのは、あまりにも忍びない。
(なんとかできないか……? あ……)
不意に、陽介は気がついた。なんの幸いか、陽介の手元にはもう一枚無料チケットがある。先程の瑞月と違い、リズムゲームを1回で済ませたゆえに残ったものだ。
(なんか、なんか、ないか!? 技術がなくても出来て、必ず結果が出るゲーム。────って、あ!)
視線をさまよわせると、あるゲーム機が目に留まった。起死回生のチャンスは得た。陽介は明るく、傷心気味の瑞月に話しかける。
「瀬名……あれならお前もできんじゃね?」
陽介が示したのはキャンディの積まれたベンディングマシン——言ってしまえば当たりつきの自動販売機である。ボタンを押すと1から9までの数字がランダムで表示されるルーレットが始まり、数の大きさに応じて景品が貰えるという代物だ。プレイヤーの技術は必要ではなく、完全に運が関わってくるゲーム。そして、多かれ少なかれ景品は絶対に貰える。
陽介は無料チケットを店員に提示し、ベンディングマシンを起動させた。ルーレットがランダムに数字を表示して輝く。そうして、意気消沈気味の瑞月に陽介は近づいた。
「瀬名、こっち来てやってみ? このゲームなら絶対お前もできるからさ」
「あ……いや、でも私は」
「もうゲーム始まってんぞ。あと、俺こういう運が関わるゲームはあんま強くないんだよ。やっても大抵残念賞しかとれねぇんだよなぁ。つーわけでお前に任せる」
「はっ!?」
「ほれ、お客さん集まって来るぞー。お前がやらなきゃ押す人いないんだけどなぁ」
陽介は両手をあげ『お手上げ侍』のポーズをとる。手は出さないという意志表示だ。瑞月は観念したかのようにトボトボと立ち上がり、ベンディングマシンの前に立った。恐る恐る、彼女はルーレットのボタンを押す。
結果は——8、大当たりだ。ドサドサドサッ! と景品のキャンディが取り出し口に落ちてくる。陽介は破顔して、ベンディングマシンと、棒立ちになった瑞月のもとに駆け寄った。
「よっしゃ、やったじゃねーか瀬名! 大当たりだぞ。コレがほんとの『終わりよければすべてよし』ってヤツだな!」
「と、取れた。ルーレット回しただけだけれど……」
陽介ははしゃいでキャンディを取りにかかる。瑞月はおずおずとその様子を覗き込んだ。取り出し口から現れたキャンディを手のひらに載せて、陽介は瑞月の眼前に突き出す。山盛りのキャンディと、からりと笑った陽介を交互に見つめて、瑞月は控えめに微笑んだ。