幕間 雪子と彼女とテスト勉強と
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12月3日 金曜日
定期考査4日目。最終日の前日とあって、生徒の疲労もピークに達している時期だ。天城雪子もその一人だが、他の生徒よりは余裕がある。今日の日程は、雪子の得意とする文系の科目が多かったからである。ノートと問題用紙をまとめた鞄を持って、雪子は席を立つ。
親友の里中千枝は答え合わせの後、弾丸の勢いで下校してしまった。机に縛られるストレスがピークに達したらしく、我流カンフーの武者修行に出向くとのこと。
雪子はというと、八十神高校の図書室に向かうと決めた。普段の雪子であれば自室で勉強するのだが、ときたま気分転換に図書室を使うのだ。
古く塗装の一部がはがれた扉を開く。閲覧席を埋める人数に一瞬たじろぐ。テスト期間であるからか、利用者がいつもより多かった。空席を探して回ると、窓際から2番目の席が空いている。なぜ、一席だけ空いているのか。不思議に思いながら近づくと、末席にいたのは見知った顔だった。
「瑞月ちゃん」
「ん?……ああ、雪子さんか」
瀬名瑞月、雪子が最近話すようになったクラスメイトだ。
バス通学により登校が早い雪子は、朝のSHRまでの時間、彼女と話す機会が多くなった。近寄りがたい容貌に反して、話してみると意外と会話が続く人物。その気さくさに驚いたことは雪子の記憶に新しい。
そんな瑞月の閲覧席には、明日の試験科目である数学ⅠAの教科書とノート数冊が広げられている。雪子は空席になった彼女の隣をチラチラと見やった。
「隣、大丈夫かな?」
「雪子さんさえよければ、咎める人なんていないよ」
瑞月が椅子を引いたので、雪子は慌てて腰かけた。瑞月はそのまま、問題集に関心を戻す。雪子も数学の教材を取り出して、ペンを持った。
数学は注意したい科目だった。雪子は全教科まんべんなくこなせるけれど、理系は得意の文系に劣る。基本は落とさないけれど、応用となるといくつもの公式が絡まり合って得点が難しくなってくるのだ。今も問題と解説と見比べて知識のほころびを特定、修正の繰り返しだ。
苦手な問題に納得がいったところで、一息ついた。ふと、隣の瑞月を見る。彼女が解いているのも応用問題だが、ペンの動きによどみがない。几帳面な青ペンの文字がびっしりとノートに綴られている。
「……どうかしたのか? 雪子さん」
問題をすらすらと解いていく手際に魅入られてしまったらしい。雪子の視線に気がついた瑞月がぱちぱちと瞳を瞬かせる。
「あ、ええと……ここの問題がちょっと分からなくって」
雪子は躓いて後回しにした問題を指さした。瑞月が問題集に顔を寄せる。文章を一瞥すると「ふむ」と小さく頷いた。
「示された数式から、三角形の形を求める問題よな。三角比の公式を自由に変形できるかが鍵だ。三角形の形は、3つの辺の長さで決まるから、この数式を辺の長さだけで表してしまえばいい。つまり数式に、辺の長さを含んでいる三角比の公式を当てはめろと言うことだ」
瑞月はルーズリーフを取り出して、三角比の公式を問題に当てはめてた。手渡された数式を雪子が解いていく。みるみるうちに複雑な数式から文字が消えて、3辺の長さを表すシンプルな形になった。
「3辺a,b,cのうち、b=cの二等辺三角形。……それからもう一つは、直角三角形の公式」
「正解だ」
雪子の答えに、瑞月がわずかに頬をあげた。寒色の瞳がほんの少し明るい気がする。冷たい無表情が常である彼女がこんな表情もするのかと、雪子は一瞬あっけにとられた。だがあまり驚くのも失礼だと、すぐに礼を言い問題集に戻る。
その後も雪子は分からない箇所があると、瑞月に解法を尋ねた。瑞月は顔色を変えずに応じる。打てば響くような速度で、適切な解説を問題に添えた。おかげで、雪子の勉強はずいぶんと捗った気がする。
定期考査4日目。最終日の前日とあって、生徒の疲労もピークに達している時期だ。天城雪子もその一人だが、他の生徒よりは余裕がある。今日の日程は、雪子の得意とする文系の科目が多かったからである。ノートと問題用紙をまとめた鞄を持って、雪子は席を立つ。
親友の里中千枝は答え合わせの後、弾丸の勢いで下校してしまった。机に縛られるストレスがピークに達したらしく、我流カンフーの武者修行に出向くとのこと。
雪子はというと、八十神高校の図書室に向かうと決めた。普段の雪子であれば自室で勉強するのだが、ときたま気分転換に図書室を使うのだ。
古く塗装の一部がはがれた扉を開く。閲覧席を埋める人数に一瞬たじろぐ。テスト期間であるからか、利用者がいつもより多かった。空席を探して回ると、窓際から2番目の席が空いている。なぜ、一席だけ空いているのか。不思議に思いながら近づくと、末席にいたのは見知った顔だった。
「瑞月ちゃん」
「ん?……ああ、雪子さんか」
瀬名瑞月、雪子が最近話すようになったクラスメイトだ。
バス通学により登校が早い雪子は、朝のSHRまでの時間、彼女と話す機会が多くなった。近寄りがたい容貌に反して、話してみると意外と会話が続く人物。その気さくさに驚いたことは雪子の記憶に新しい。
そんな瑞月の閲覧席には、明日の試験科目である数学ⅠAの教科書とノート数冊が広げられている。雪子は空席になった彼女の隣をチラチラと見やった。
「隣、大丈夫かな?」
「雪子さんさえよければ、咎める人なんていないよ」
瑞月が椅子を引いたので、雪子は慌てて腰かけた。瑞月はそのまま、問題集に関心を戻す。雪子も数学の教材を取り出して、ペンを持った。
数学は注意したい科目だった。雪子は全教科まんべんなくこなせるけれど、理系は得意の文系に劣る。基本は落とさないけれど、応用となるといくつもの公式が絡まり合って得点が難しくなってくるのだ。今も問題と解説と見比べて知識のほころびを特定、修正の繰り返しだ。
苦手な問題に納得がいったところで、一息ついた。ふと、隣の瑞月を見る。彼女が解いているのも応用問題だが、ペンの動きによどみがない。几帳面な青ペンの文字がびっしりとノートに綴られている。
「……どうかしたのか? 雪子さん」
問題をすらすらと解いていく手際に魅入られてしまったらしい。雪子の視線に気がついた瑞月がぱちぱちと瞳を瞬かせる。
「あ、ええと……ここの問題がちょっと分からなくって」
雪子は躓いて後回しにした問題を指さした。瑞月が問題集に顔を寄せる。文章を一瞥すると「ふむ」と小さく頷いた。
「示された数式から、三角形の形を求める問題よな。三角比の公式を自由に変形できるかが鍵だ。三角形の形は、3つの辺の長さで決まるから、この数式を辺の長さだけで表してしまえばいい。つまり数式に、辺の長さを含んでいる三角比の公式を当てはめろと言うことだ」
瑞月はルーズリーフを取り出して、三角比の公式を問題に当てはめてた。手渡された数式を雪子が解いていく。みるみるうちに複雑な数式から文字が消えて、3辺の長さを表すシンプルな形になった。
「3辺a,b,cのうち、b=cの二等辺三角形。……それからもう一つは、直角三角形の公式」
「正解だ」
雪子の答えに、瑞月がわずかに頬をあげた。寒色の瞳がほんの少し明るい気がする。冷たい無表情が常である彼女がこんな表情もするのかと、雪子は一瞬あっけにとられた。だがあまり驚くのも失礼だと、すぐに礼を言い問題集に戻る。
その後も雪子は分からない箇所があると、瑞月に解法を尋ねた。瑞月は顔色を変えずに応じる。打てば響くような速度で、適切な解説を問題に添えた。おかげで、雪子の勉強はずいぶんと捗った気がする。