＊＊＊

　11月20日——すなわち昨日、佳菜が引き連れてきた水奈子は、陽介と話がしたいと迫ってきたのだ。

『瑞月ちゃんについて少々伺いたいのですが』

　水奈子は柔和に笑いながら、跳ね返しがたい迫力を持って陽介に詰め寄ってきた。まるで聞き込みの刑事じみた圧であった。水奈子の迫力に屈した陽介から、彼女は予定を聞き出した後、瞬く間にアポを取り付けたのである。

　頷く陽介を見届けた水奈子は、待ち合わせ場所と言って名刺サイズのカードを取り出した。『喫茶La Pause』のショップカードである。そこに記された住所を頼りに、陽介は『喫茶La Pause』にたどり着いたのだ。

＊＊＊

　正直、急な誘いに応じていいのか陽介は判断に迷った。しかし、水奈子の圧や手際の良さを振り返ると、陽介は行かざるを得なかった。加えて、瑞月が傷ついた理由について身内から手がかりを聞き出せるかもしれないチャンスだ。下心と緊張を隠し、陽介は人受けのいい笑みを形作る。

「大丈夫です。今日はバイト終わって、午後何もやることなくて暇だったんで。むしろ、瑞月さんのお母さんと話ができて嬉しいですよ」
「あら、それはそれは。会ったこともないのに、どうして？」
「文化祭で、瑞月さんがめちゃくちゃ頑張ってたから、気になってたんです」
「文化祭？　……そういえば瑞月ちゃん、クラスの出し物のメニューを考えているって相談に乗りましたねぇ」

　きょとんと、水奈子は首をかしげる。八十神高校の文化祭と自身がイマイチつながっていない様子だ。場を盛り上げるために、陽介は水奈子が興味を持ちそうな話題を口にした。

「瑞月さん、文化祭実行委員として動いてるとき言ってたんですよ。『母の名前を出された以上、任された仕事はやり遂げる』って」

　ズザザッと、何やら衣擦れの音がする。何事かと陽介が驚くと、水奈子が両手を掲げてのけぞっていた。陽介以上に、水奈子が驚いていた。だが、今の話の中に驚く要素があっただろうか。娘が母親のために感動していたのなら、リアクションが大げさすぎる。

「あ、あの……」
「どうしました？」
「瑞月ちゃん、文化祭実行委員会だったんですか……！？」
「……え！？」