最悪の出会い
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***
自転車で派手に転んだあと、気がつくと陽介は病院のベッドで寝かされていた。
傍らにいた母いわく、陽介は救急車によって運ばれたらしい。悪天候により野次馬がいなかったので搬送が速く済んだのだという。
その後、陽介は自転車暴走の件で母にこっぴどく叱られた。(ちなみに怒った母の迫力は、今でも思いだすと身震いが起こるほどに恐ろしかった。閑話休題)
そして救急車を呼んでくれた人に心当たりがないかと訊かれた。
なんでもその人は、陽介の負傷について詳しく説明したのち、泥水まみれのまま帰ってしまったとは救急隊員の話である。
なんでも自分は無事なので、警察沙汰にする必要はない。だから、気絶した陽介の看護を優先してほしいという要望を告げて。
ちなみに吹っ飛んでいった陽介の自転車も、その人のおかげで発見できたらしい。救急隊員への言付けに含まれていて、雨のなか濡れないよう街路樹の下に立て掛けてあったところを母が発見した。
陽介は自分を助けてくれた人────瀬名瑞月の名前を口にした。同級生であることも。
そこからの母は迅速だった。医者に念を押されて陽介が自宅療養に徹していた10月10日と11日の間に、地元の大型ショッピングモール『ジュネス』にて購入した大きな菓子折り入りの紙袋を、ベッドの上にいた陽介へと押しつけた。
本来であれば面と向かって謝罪をすべきだが、陽介は瑞月のアドレスを知らない。ゆえに連絡を取ったうえで対面して話あうことはできない。菓子折りは、それでも謝っておきたいという、母親なりの苦渋の決断だったのだろう。
陽介自身も瑞月には申し訳がなかったし、謝りたかった。何としてでも渡せという圧を放つ母親からおそるおそる菓子折りを受けとりながらも、しっかりと頷いてみせたのだった。
◇◇◇
時は繰り、10月11日の今朝はやく、まだ教室に人も少ない時間帯のこと。教室に入ってきた瑞月は陽介に目もくれず自席へと向かった。
鞄から取り出した教科書を机の引き出しに入れようとして、彼女は手を止めた。瑞月は白い封筒を取り出し、碧 い目でまじまじとそれを観察した。陽介は固唾を飲んで、彼女が封筒を開けてくれるように自席から祈った。
封筒は、陽介が用意したものだった。そのなかには、事故への簡素な謝罪の言葉と、改めて詳しい謝罪をしたい旨、そのために昼休みに屋上へ来てほしいという要求を記した。
わざわざ手紙にしたのは、必要最低限しか教室におらず、人と話すことを好まないと思われる瑞月への配慮だ。
さいわい、彼女は封筒内の手紙に目を通した。しばらくして読み終えたそれを丁寧に畳みなおすと、ちらりと陽介に目配せを送ってきた。
気がついた陽介が申し訳なさそうに手を小さく合わせると、瑞月は無表情のままこくりと小さく頷いてから、手紙を鞄の中へとしまった。どうやら了承してくれたようで、陽介は人知れず安心から脱力したのだった。
***
そして、現在、屋上の2人にいたる。
陽介は事前に考えていた言葉を、手のひらを握りしめて口にする。
「その、瀬名さんを水浸しにしたこと、申し訳ない。それから、わざわざ救急車呼んで助けてくれて、ありがとう」
「……救急車の件は、身体に大事がなくて何よりだ。それで、君はどう謝るつもりなんだ?」
瑞月の問いかけに、陽介は持っていた紙袋を差し出した。母親から渡されたものの他、相手の親への謝罪文、賠償金が入った封筒が入っている。お金は陽介の貯金から出したものだ。
「これ、中に菓子折りとクリーニング代と、新しい服が買えるくらいの金額が入ってる、受け取ってくれないか」
「……君の態度では、これらの品を受け取っても意味がない」
瑞月の瞳が険しくなった。陽介は言葉に詰まる。謝礼の品を持ってきても、彼女は満足していないというのか。
自転車で派手に転んだあと、気がつくと陽介は病院のベッドで寝かされていた。
傍らにいた母いわく、陽介は救急車によって運ばれたらしい。悪天候により野次馬がいなかったので搬送が速く済んだのだという。
その後、陽介は自転車暴走の件で母にこっぴどく叱られた。(ちなみに怒った母の迫力は、今でも思いだすと身震いが起こるほどに恐ろしかった。閑話休題)
そして救急車を呼んでくれた人に心当たりがないかと訊かれた。
なんでもその人は、陽介の負傷について詳しく説明したのち、泥水まみれのまま帰ってしまったとは救急隊員の話である。
なんでも自分は無事なので、警察沙汰にする必要はない。だから、気絶した陽介の看護を優先してほしいという要望を告げて。
ちなみに吹っ飛んでいった陽介の自転車も、その人のおかげで発見できたらしい。救急隊員への言付けに含まれていて、雨のなか濡れないよう街路樹の下に立て掛けてあったところを母が発見した。
陽介は自分を助けてくれた人────瀬名瑞月の名前を口にした。同級生であることも。
そこからの母は迅速だった。医者に念を押されて陽介が自宅療養に徹していた10月10日と11日の間に、地元の大型ショッピングモール『ジュネス』にて購入した大きな菓子折り入りの紙袋を、ベッドの上にいた陽介へと押しつけた。
本来であれば面と向かって謝罪をすべきだが、陽介は瑞月のアドレスを知らない。ゆえに連絡を取ったうえで対面して話あうことはできない。菓子折りは、それでも謝っておきたいという、母親なりの苦渋の決断だったのだろう。
陽介自身も瑞月には申し訳がなかったし、謝りたかった。何としてでも渡せという圧を放つ母親からおそるおそる菓子折りを受けとりながらも、しっかりと頷いてみせたのだった。
◇◇◇
時は繰り、10月11日の今朝はやく、まだ教室に人も少ない時間帯のこと。教室に入ってきた瑞月は陽介に目もくれず自席へと向かった。
鞄から取り出した教科書を机の引き出しに入れようとして、彼女は手を止めた。瑞月は白い封筒を取り出し、
封筒は、陽介が用意したものだった。そのなかには、事故への簡素な謝罪の言葉と、改めて詳しい謝罪をしたい旨、そのために昼休みに屋上へ来てほしいという要求を記した。
わざわざ手紙にしたのは、必要最低限しか教室におらず、人と話すことを好まないと思われる瑞月への配慮だ。
さいわい、彼女は封筒内の手紙に目を通した。しばらくして読み終えたそれを丁寧に畳みなおすと、ちらりと陽介に目配せを送ってきた。
気がついた陽介が申し訳なさそうに手を小さく合わせると、瑞月は無表情のままこくりと小さく頷いてから、手紙を鞄の中へとしまった。どうやら了承してくれたようで、陽介は人知れず安心から脱力したのだった。
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そして、現在、屋上の2人にいたる。
陽介は事前に考えていた言葉を、手のひらを握りしめて口にする。
「その、瀬名さんを水浸しにしたこと、申し訳ない。それから、わざわざ救急車呼んで助けてくれて、ありがとう」
「……救急車の件は、身体に大事がなくて何よりだ。それで、君はどう謝るつもりなんだ?」
瑞月の問いかけに、陽介は持っていた紙袋を差し出した。母親から渡されたものの他、相手の親への謝罪文、賠償金が入った封筒が入っている。お金は陽介の貯金から出したものだ。
「これ、中に菓子折りとクリーニング代と、新しい服が買えるくらいの金額が入ってる、受け取ってくれないか」
「……君の態度では、これらの品を受け取っても意味がない」
瑞月の瞳が険しくなった。陽介は言葉に詰まる。謝礼の品を持ってきても、彼女は満足していないというのか。