裸の語らい
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11月19日 金曜日 夜
ブクブクと陽介は湯船に沈む。ここは花村宅の風呂場。その浴槽に張られた風呂の湯は熱くもなく、冷たくもなく、体の疲れをとるにはちょうどいい温度だ。だと言うのに、陽介の抱えたモヤモヤと胸にまとわりつく不快感は一向に取れる気配がない。
透明な水の中に溶け出してくれたらと思っていたが、期待外れだったようだ。
プハァッと陽介は湯船から浮上した。空っぽの肺へと新鮮な空気を取り込むが、どこか息苦しいままだ。
それもそのはず、陽介が抱えている息苦しさは心因性だ。物理的な処置で取れる訳がない。そして、原因はハッキリと分かっている。
今日の昼休み、陽介は友達と喧嘩した。というより、一方的にキレた陽介が、相手を一方的に傷つけてしまった。その場で謝れば良かったものを、意気地なしな陽介は、傷心の相手が立ち去るのを呆然と眺めているしかできなかった。
その後も、謝罪どころか──話しかけることすらできないまま、オートパイロットモードでバイトを終え、花村宅に帰宅したのである。誰か無様と笑ってくれと陽介は自嘲する。
(話しかけることすら……出来なかったなぁ)
あの後、陽介が我に返ったのは昼休みの終わりを告げる予鈴によってだ。つまりその間、まったく立ち尽くしていたのである。
慌てて教室に戻ったところ、瑞月はきちんと午後の授業に出席していた。
──が、明らかに様子がおかしかった。
授業の合間、常であれば教室で教科書を読んでいるというのに、忽然と姿を消してしまっていたのである。加えて──
『瑞月ちゃん? もう帰っちゃったけど……』
『昼休みに、用事があるから帰れないって……』
──放課後になると、音もなく帰宅してしまったのだ。最近一緒に帰るようになった千枝と雪子に理由を尋ねたから間違いない。2人も、昼休みに教室に戻ってきた瑞月に違和感を覚えたという。
(多分、俺と顔会わすのがヤなんだろうな)
考えていて悲しくなった陽介は、再び湯船に顔を沈める。口元から吹き出したアブクがブクブクブク……と消えていく様子が空しく思えてきた。だが沈鬱な思考は、突如として打ち切られる。
スッパーーーーーーーーーーーーン!!!
「──!? んゲホゥッ!」
風呂場へと通じる引き戸が前置きなしで開かれた。しかもかなり勢いよく。静寂を打ち破るやかましい騒音に陽介は身体を滑らせ、そして思いっきり風呂の水を誤飲した。咳こむ陽介などお構いなしに、人の入浴に突撃する不届き者は無邪気な明るさで笑う。
「おっ、どうした陽介。風呂場で泳ぎの練習でもしてたのか? あんまり激しくするなよ。風呂の水がなくなるからな」
「ゲホゲホッ──ツッコむとこソコじゃねーだろ! つか、狭くてできねっつの! つかオレのこと何歳だと思ってんだよ!?」
「何歳になっても、お前は俺のかわいい息子だぞ?」
「子供扱いにもほどがあんだろがッ! 年齢に応じた扱いってのをご存じっ!?」
怒濤のツッコミに対しても、相手はまったく動じない。どころか、ハッハッハッと腹の底から笑い飛ばしてしまった。風呂場に満ちた湯気が、開いた入り口から逃げていく。そうして現れたのは、陽介がよく知った──自分が年を重ねたら、こんな顔立ちになるんだろうというほどよく似ている──面立ちだった。
「つか────────なんで入ってきてんだ親父!」
風呂場に入ってきたのは、花村陽一──陽介の父親だった。
ブクブクと陽介は湯船に沈む。ここは花村宅の風呂場。その浴槽に張られた風呂の湯は熱くもなく、冷たくもなく、体の疲れをとるにはちょうどいい温度だ。だと言うのに、陽介の抱えたモヤモヤと胸にまとわりつく不快感は一向に取れる気配がない。
透明な水の中に溶け出してくれたらと思っていたが、期待外れだったようだ。
プハァッと陽介は湯船から浮上した。空っぽの肺へと新鮮な空気を取り込むが、どこか息苦しいままだ。
それもそのはず、陽介が抱えている息苦しさは心因性だ。物理的な処置で取れる訳がない。そして、原因はハッキリと分かっている。
今日の昼休み、陽介は友達と喧嘩した。というより、一方的にキレた陽介が、相手を一方的に傷つけてしまった。その場で謝れば良かったものを、意気地なしな陽介は、傷心の相手が立ち去るのを呆然と眺めているしかできなかった。
その後も、謝罪どころか──話しかけることすらできないまま、オートパイロットモードでバイトを終え、花村宅に帰宅したのである。誰か無様と笑ってくれと陽介は自嘲する。
(話しかけることすら……出来なかったなぁ)
あの後、陽介が我に返ったのは昼休みの終わりを告げる予鈴によってだ。つまりその間、まったく立ち尽くしていたのである。
慌てて教室に戻ったところ、瑞月はきちんと午後の授業に出席していた。
──が、明らかに様子がおかしかった。
授業の合間、常であれば教室で教科書を読んでいるというのに、忽然と姿を消してしまっていたのである。加えて──
『瑞月ちゃん? もう帰っちゃったけど……』
『昼休みに、用事があるから帰れないって……』
──放課後になると、音もなく帰宅してしまったのだ。最近一緒に帰るようになった千枝と雪子に理由を尋ねたから間違いない。2人も、昼休みに教室に戻ってきた瑞月に違和感を覚えたという。
(多分、俺と顔会わすのがヤなんだろうな)
考えていて悲しくなった陽介は、再び湯船に顔を沈める。口元から吹き出したアブクがブクブクブク……と消えていく様子が空しく思えてきた。だが沈鬱な思考は、突如として打ち切られる。
スッパーーーーーーーーーーーーン!!!
「──!? んゲホゥッ!」
風呂場へと通じる引き戸が前置きなしで開かれた。しかもかなり勢いよく。静寂を打ち破るやかましい騒音に陽介は身体を滑らせ、そして思いっきり風呂の水を誤飲した。咳こむ陽介などお構いなしに、人の入浴に突撃する不届き者は無邪気な明るさで笑う。
「おっ、どうした陽介。風呂場で泳ぎの練習でもしてたのか? あんまり激しくするなよ。風呂の水がなくなるからな」
「ゲホゲホッ──ツッコむとこソコじゃねーだろ! つか、狭くてできねっつの! つかオレのこと何歳だと思ってんだよ!?」
「何歳になっても、お前は俺のかわいい息子だぞ?」
「子供扱いにもほどがあんだろがッ! 年齢に応じた扱いってのをご存じっ!?」
怒濤のツッコミに対しても、相手はまったく動じない。どころか、ハッハッハッと腹の底から笑い飛ばしてしまった。風呂場に満ちた湯気が、開いた入り口から逃げていく。そうして現れたのは、陽介がよく知った──自分が年を重ねたら、こんな顔立ちになるんだろうというほどよく似ている──面立ちだった。
「つか────────なんで入ってきてんだ親父!」
風呂場に入ってきたのは、花村陽一──陽介の父親だった。